ポケットの一円玉

鹿児島の池田学園さんが以前発行していた総合誌「学び」38号から、副理事長・池田真実さんのお話を紹介させていただきます。

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「ポケットの一円玉」

池田真実

「自動車を運転している時。工事中で二車線から一車線になるポイントで、目で『お先にどうぞ』と合図して入れてくれる人がいる。これもプチ紳士。つまり、プチ紳士とは、ついつい見過ごしがちなほどの、小さな小さな親切をする人のことなのです」

と志賀内泰弘さんは言う。

さて、たまに立ち寄る洋菓子店がある。
お店に入るとカウンターで若い女性の店員が明るい声と笑顔で迎えてくれる。

ここまではどのお店でも見られる光景。
しかし、このお店では、
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
の元気な声が厨房からも聞こえてくる。

パティシェの声だ。ガラス越しに見える姿は生き生きとしている。
たとえ厨房にいても、
常にお客さんと対面している気持ちで仕事に取り組んでいるからであろう。
このお店ではお金では買えない「気持ち」までもケーキにトッピングしてくれる。
私にとって心のプチ紳士・プチ淑女たちだ。

また、ある日、ホテルに待機していたタクシーに乗車した。
運転手が「○○号実車します」と無線で告げると、
配車係から「○○号、了解しました。ご乗車有難うございます」
という声が無線から返ってきた。
たとえ姿が見えなくてもやり取りをお客が聞いているという心遣いからだろう。
初めて耳にした「ご乗車有難うございます」の一言で温かい気持ちになった。
この配車係の方もプチ紳士だ。

先日、知人に誘われ喫茶店に入った。
席に着くやいなや知人は私のことを褒め出した。
そして、おもむろに右ポケットから一円玉を取り出した。

手品でも始めるのかと思いきや、
その一円玉を左ポケットに入れた。
常時、右ポケットに一円玉を10枚入れておき、
人を褒める度に左ポケットに1枚一円玉を移すのだという。
1日に10ずつ人の良いところを褒めるようにしているそうだ。
人を褒めることの大切さを分かってはいるものの、
なかなか実行に移せないのが現状だ。
でも、この知人の一円玉で褒めた数をカウントする方法であれば目標ができ、
より実行に移しやすい。

家に帰り、早速、5円玉を10枚準備して右ポケットに入れた。
知人のように人を褒めたら5円玉を左ポケットに移すことにした。
5円玉でご縁がありますように。
このアイデアを教えて下さったプチ紳士とのご縁に感謝している。
目を凝らせばもっと多くのプチ紳士が見えてくるのだろう。
耳を澄ませばもっとプチ淑女の声が聞こえてくるのだろう。