「真実の話」より「しい椎の実」

 小学四年の時だった。毎週日曜日の早朝、城山に集まりラジオ体操をしていた。終わるとカードにスタンプを押してもらえた。このスタンプ欲しさもあってずっと参加していた。

 城山へは遊歩道を歩いて登り、帰りは友人たちと照國神社の脇道に出る階段を降りた。この階段は城山までの近道だったが、階段が急でせま狭かったため利用する人はほとんどいなかった。一人だと恐くて心細いが、友人たちと一緒だと心強く冒険心いっぱいで楽しかった。

 秋の頃、階段の脇でドングリに似た木の実を見つけた。ドングリより細長く小さい。拾って帰ると、母が「椎の実という食べられる木の実だよ」と言って、フライパンで煎ってくれた。殻を割って食べると栗のように香ばしくておいしかった。自然の味覚を見つけた私は、それから毎回、椎の実を拾って帰るようになった。

 中には、たまにきり錐であけたような小さい穴がある椎の実もあった。何だろう?
フライパンで煎っているとその正体が分かった。熱くなって中から小さな虫が出てきた。何という虫かは分からないが、せっせと穴をあけて中の実を食べたのだろう。それから穴のあいていない椎の実だけ選ぶようになったが。

 ある日のこと、いつものように早起きし、城山に向かった。しかし、それは夢だったのだ。夢から覚めて飛び起きたときは、すでに集合時間を過ぎていた。

 今まで休むことなく続けてきたのに。悔しくて、情けなくて、涙が溢れた。並んでいたスタンプもその日だけ空白になり、心の中にもぽっかり穴が開いた。

 椎の実には、この苦い経験など少年時代の思い出がたくさん詰まっている。

 今は亡き優しかった母の思い出も。