小林書店新聞特別号

「小林書店新聞特別号」

2年ぐらい前から思っていた。零細の本屋に何ができるのだろう。
うちの店だけのことではない。次々と消えてゆく、全国の同じような「街の小さな本屋さん」が生き残るためには、どうしたらいいか。資本も社員もいない。家族だけで営むわたしたちでも、できることはないのだろうか。
そんな中、「やってみたい」と強く願っていたことがあった。「本の頒布会」だ。毎月、1冊の本をお客様に届ける。その1冊は、わたしが独断と偏見で選んだものに過ぎないが、ひょっとしたら、「元気が出た」「人生が変わった」「癒された」・・・と思ってもらえるかもしれない。でも、「小林さんの勧める本が読んでみたい」と言ってくれる人がいるだろうか。第一、日々の仕事で精一杯。お金のことも、毎月の送付の手間暇のことも・・・考えるだけでも憂鬱になってしまう。「いつかやれたらなぁ」と願うだけで、ずっと心の中に仕舞っていた。
そんなとき、2年ほど前に知りあった作家の志賀内泰弘さんから声をかけていただいた。「小林さん、本の頒布会しようよ、企画立てるよ」と。「やりたいけど・・・」と戸惑うわたし。しばらくすると、びっくりするような企画書ができあがって来た。
思いもしない内容だった。「ステキな本との出会いの場」「いい話の小さな図書館の館主を募集しています」というもの。カフェに、待合室に、会社に、ご自宅に、良書を置いて「楽しく生きる」を仲間とシェアする。
びっくりした。単なる「本の頒布会」ではない。本を毎月送るだけではない。全国にいい話の本ばかりの小さな図書館を作ろうという試みなのだ。
「やりたい!」と返事。背中を押されてスタートした。オリジナルのブックカバーを包んで毎月お届けするという趣向。そのブックカバーには、わたしの手書きの「メッセージ」を添える。さらに、裏面は「小林書店新聞」という読み物になっている。そのコラムの原稿を書くのに四苦八苦。
この3月末、志賀内さんの全国のお仲間に募集案内が送付された。早速に2件、3件との申し込みが届く。うれい悲鳴!ところが・・・。
その矢先の、4月1日早朝、主人が倒れた。..
もう頭が真っ白で右往左往。何も考えられない。それでも、とっさに思ったのは、「いい話の小さな図書館」のことだった。志賀内さんに、ことの次第を報告すると、こんなことを言われた。「今は、何を置いてもご主人のことを考えなければいけません。この企画延期しましょうか?やめましょうか?」と。実は、主人がとても楽しみにしていた企画だった。このままやめてしまうことは忍びない。気が付くと、「こんなときだからこそ、やりたいです」と答えていた。わずか1か月で、20件以上の申し込みがあった。泣けてきた。年間3万円の先払い。「カリスマ店長」などと持ち上げすぎのキャッチコピーを付けてPRはして下さったものの、一度も会ったことのない、遠くの街の小さな小さな本屋のオバチャンを信じて下さるなんて。病院の主人にも報告。お送りする本が、1冊でも「出逢ってよかった~」と思っていただけたら、細々ながらも本屋を続けてきた甲斐がある。