みんな優しくて良かったね

「みんな優しくて良かったね」

主人の姉の話である。独身のまま定年まで会社務めをした。現在、85歳で独り暮らし。健康ではあったが、ずっと股関節脱臼に悩まされてきた。それが、歳をとるにつれ痛みがひどくなり歩行も困難に。ヘルパーさんを頼りにする生活をしている。
その義姉が一番上で、下に男3人の4姉弟だ。真ん中のうちの主人は、2年前に脳梗塞で体が不自由になり、ただいま自宅でリハビリ中。長兄も80歳で、数年前に病気で介護を受ける身になった。その兄嫁も持病があって入院を繰り返している。弟は元気だが千葉在住だ。
そんな中で、義姉をわたししか面倒できる人がいない。認知症も発症してきたので、施設に入所する手続きをしようとしていた矢先のことだ。尿管結石から炎症を起こし発熱。急遽入院することになってしまった。1ヶ月ほどの入院予定と言われた。おそらく、ますます認知症は進むだろう。体の衰えも著しくなるに違いない。急いで施設を探すことになった。
と同時に、賃貸の自宅を引き払う手続きや引っ越し作業もある。わたしは、配達やら店の仕事の合間に、自転車で20分ほどのところにある義姉の家へ足しげく通い、兄嫁と一緒に片付けを始めた。若い時から茶道と俳句が趣味だった義姉は、たくさんの着物と本を持っている。処分するには忍びない。千葉にいる義弟が車で来てくれて、たとえ高価な物でなくても義姉の生存中は預かると言ってくれた。ほっと胸を撫でおろす。
昔から仲の良い姉弟だ。でも、なんともならない。義姉の3人の弟は、兄嫁とわたしに申し訳ないと心を痛めている。満足なことはできないが、せめて義弟たちの思いの何分の一かでもできたらと、二人でがんばっている。幸い、甥たちも仕事の合間に駆けつけてくれる。普段は疎遠になりがちな兄嫁とも、片付けをしながら話す機会を得た。
「三人の弟たちがみんな優しくて良かったね」と言うわたしに、兄嫁がこう言い、相槌を打った。「ほんと、わたしたちもいいくじ引いたよね」。それが何より嬉しかった。老々介護。でも、辛いことばかりではない。みんなの心の距離が近くなった。
まだまだ「たいへん」が続く。でも、せめてこれからの人生を、ゆったりとおだやかにと願うばかりである。