店番しようか

「店番しようか」

この4月1日の早朝。73歳の主人が脳梗塞で倒れた。目が覚めて立ち上がろうとしたが、「左足が動かない」と言い崩れ落ちた。動揺しながらも必死で救急車を呼んだ。病院に着くと、幸いなことに言語には障害はなかった。自ら冷静に症状を話す様子に、「最悪な状態」ではないと感じ、少しだけ落ち着くことができた。入院し、11日間24時間の点滴を受けた。そのまま退院と思い込んでいたが、左手足の麻痺が強く、帰宅は許されなかった。入院25日後に、リハビリ専門病院に転院してリハビリを受けることになった。
小林書店は、主人が地域のお得意様に配達することで経営が成り立っている。夫婦とも車の免許がないので、すべて自転車での配達。その範囲は、伊丹市にまで及んでいる。「どうしよう・・・」。わたしは古ぼけたパソコンを前に悩んだ。納品書や請求書の出し方がわかならいのだ。そんな事務の一つひとつも主人に頼り切りだったことに、改めて気づかされた。すぐそばに住んでいる娘が駆け付けてくれた。実は、その娘も半年前に大病を患っている。「わたしが手伝うから、お父さんが復帰するまでがんばろう」と励ましてくれた。
サラリーマンをしている息子が、勤め先の社長に事情を話した。すると、「当分、午後からの出勤でいいから、両親の役にたってこい」と言われたという。さらに、「仕事とは、家族を守るためにするものだ、家族や親が大変なときに手伝えない仕事ってなんだ」と。これには涙がでた。娘と、息子が相談し合い、配達を分担。遠方のお客様は、息子が車で配達してくれることになった。
そんな右往左往している先日のことだ。雨の中、配達に行こうと外に出ると、傘をさして店の前に立っている人が・・・。以前、本の取次会社に勤めていたことのある知人だった。うちとは取引のない会社である。「僕は尼崎に住んでいます。今は、再就職して時間に余裕があるので、朝1、2時間ぐらいは自由になります。配達するから言ってください、本気ですよ!」と。これにも、涙がでた。
その他、「何かできることあったら言って」「店番しようか」「車が必要ならいつでも出すよ」と、多くの人たちの優しさに支えられて、くじけずに今日まで来られた。
とはいうものの、いつまでも息子に甘えてばかりはいられない。残念ながら、遠方のお客さまには、今までご愛顧いただいた感謝の気持ちと共に「配達のお断り」の旨の手紙を届けた。すると、「お父さん大事にね、遠いところまで長い間ありがとうと伝えて」という声が相次いだ。配達の途中、その伝言を息子が電話で話してくれた。息子が電話口で言う。「誠実に働くとはこういうことなんやね。お父さんすごいな」
主人は、自分の体と引き換えに、わたしや子どもたちに宝物を残してくれた。まだまだリハビリはこれからだが、みんなで笑ってがんばっていく!