少年の夢

尼崎のまちの本屋さんのお話
「少年の夢」

ある大手出版社の営業担当者の話です。彼は35歳、奥さんと小学4年生の男の子がいます。
彼は北海道の出身で、高校生の頃から地元のラジオ局の放送をずっと聴いていました。

毎週土曜日、9時間ぶっ通しの番組を持っている男性のパーソナリティーが特に好きでした。

その番組の中で、毎回2,3冊の本の紹介をしていて 本好きの少年はその本を読んで感想を

送ったそうです。するとそれを読んでくれてとてもうれしかったと言います。北海道大学に

在学中もずっと聴き続けて何とそのラジオ局に就職したいと思うようになりました。しかし、

四次面接までいきながら不合格!ショックでしたが、内定をもらっていた大手出版社に

就職するため北海道を離れます。もちろん出版関係も希望でしたし、しかも配属は憧れの

編集部、はりきって勤めながらいつか「これ!」と思う本を創って、大好きなラジオ局の

彼に送り 番組の中で紹介してもらうことを夢みていたのです。そこに突然の事態です。

彼30歳の時、そのラジオ局がはじめて「途中採用」の募集をするとのこと!全然いやでは

なかった今の会社だけど、やはりあきらめられず奥さんに話すと「いいんじゃない、北海道に

住もう」との力強い後押し、社内の先輩や同僚の猛反対のなか、初志貫徹の覚悟で受験したのです。

しかし、なぜか不合格!そのとき彼は、はっきりと自分の居場所を知って改めて本作りに励もうと

決意したのです。しかし、今年の春、その大好きなパーソナリティが病気のため他界、35年続いた 番組もなくなりました。食事も喉を通らなかった彼が、今やっと思えるようになりました。 「大好きな彼は亡くなったけど、僕に夢を与えてくれて 今の僕がいます。この番組に「これっ!」と 思う本を送って紹介してもらうのが夢でした。ありがとう、日高さん」と言って必ず本を送ります、と
話してくれました。なんて素敵なんだろう、と胸が熱くなりました。

しかし、その矢先のことでした。大好きなパーソナリティが病気のため他界し、35年続いた 番組もなくなってしまったのです。彼はしばらく食事も喉が通らないほど悲しみに暮れました。でも、時が経ち、こう思えるようになったそうです。
「今の自分があるのはパーソナリティさんのおかげです。夢を与えてくれてありがとう!いつか自分が編集した自信作の本を、パーソナリティさんとラジオ局さんに捧げたいです」
なんて素敵なんだろう、と胸が熱くなりました。