小林書店互助会

「小林書店互助会」

わたしたち夫婦が、両親から店を引き継いで43年になる。主人が倒れて現在リハビリ中。わたしも足腰を痛めて自転車に乗れなくなり、配達がままならなくなった。なんとか娘や息子に手伝ってもらい四苦八苦の日々である。「まちの本屋」にとって配達は生命線。なんとか続けなければやっていけなくなる。かと言って、薄利のため人を雇う余裕はない。子どもたちと店の存続について話をしていたある日の事だった。
あるイベントで知人のAさんに、愚痴ではないのだがついつい店の苦しい実情を零してしまった。四十代後半の男性で、普段は街づくりに関わる仕事をしている人だ。すると、思わぬことを言い出した。「僕配達しよかなあ」と。「えっ!? でも、とても配達代なんて払えないし」と言うと、「そんなんいらんよ、僕は自分で仕事してるから自由になる時間もあるし、試しに来週1回行ってみるわ」と答える。さらに、さらに、「だってそんなことでコバショ(小林書店)無くなったらあかんやん」と笑って言う。
もちろん、冗談だ思っていた。ところが、次の週の木曜日の朝、Aさんが店にやって来たから驚いてしまった。「使ってないリュックあったし。配達用にしてと持って来てウーバーイーツならぬコーバーブックスや」とやる気の満々。雑誌と本を詰め込み、「もし自転車事故して小林書店に迷惑かけたらだめだから歩いて行きまーす」と軽いノリで「行ってきまーす」と出掛けてしまった。
1時間半ほどで13軒回って戻ると、「ただいま~楽しかった。歩くだけで『ありがとう』ってお客さんに言ってもらってメチャ気持ちいい」と言う。話はここで終わらない。「リタイアして時間もお金もあるけどすることなくてお金払ってジムに行ってる人とか結構いるし、僕、声かけてみるわ」と言い、半月の間に5人も配達メンバーを集めてくれた。
子供のラジオ体操のようにスタンプカード作った。100個押せるようになっている。それを満杯にしようと5人は競って配達に出掛けてくれる。Aさんは言う。「由美子さん、店でお客さんと喋ってたらいいやん、100歳までやってよ」と。「小林書店互助会」なるグループラインまで作り、登録する仲間がどんどん増えていく。小林書店をまるで公共施設か町のサロンのように思っていてくれる人たちがいるのだ。そのおかげで、店を閉じなくてすんでいる。いや、みんなにこんなに支えてもらっているのだから、意地でも閉めるわけにはいかない。ただみんなの優しさにまた泣きながら、ありがとう、と甘えることしかできないわたしたち夫婦なのです。