岩田さんの本気

「岩田さんの本気」

少し前のこと。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に取り上げられて話題になった「一万円選書」のいわた書店の店主・岩田さんの話を聴く機会を得た。
お店は、北海道の砂川市の田舎にある。ほとんどお客が来ないという状況で、悩みに悩んで「廃業」を決意した。「上手に閉める方法」を専門家に相談に行ったときのことだ。たまたま、そこを紹介してくれた先輩が一万円を出して、「これでわたしに本を選んで欲しい」と言われた。「それならできるかも」と思い、一万円分の本を送った。それがきっかけで、「一万円選書」を始めた。それが10年ほど前のことだ。話が人づてに広がり、少しずつではあるが依頼が増えていった。
世の中には、一生かかっても読みきれない量の本がある。でも、ひとりひとりが出会える本は限られている。一方、知っているようで知らないのが「自分のこと」だ。岩田さんは「そこ」に着眼した。自分でも気がつかない「本質」に寄り添って本を選ぶことができたら、誰かの役に立つかもしれない、と考えた。
岩田さんは、「カルテ」と称するアンケートを作った。その人自身にさえ気づかない「本質」に近づくため、かなり深くつっこんだ質問をする。たとえば、「あなたが今までいちばんつらかったことは何ですか?」というもの。本当につらい思いをしてきた人は思い出して泣きながらアンケートを書くのだろう。反対に、あんなにつらいと思ったことも、書いてみるとたいしたことではなかったなと思う人もいるのかもしれない。
でも、そんな「つらい話」を聴いてくれる「本屋のおじさん」に出会ってしまったら、人はきっと心を寄せてしまうに違いない。アンケートが返信されてくると、その人にふさわしい本を本気で選ぶ。本を送る時は必ず心を込めて「手紙」を添えるという。受け取った人は、「本」という媒体を通し、心に寄り添ってくれた「岩田さん
の本気」も一緒に受け取る。単に本をすすめるのではない。単に本を売るのではない。「少しでも人生を幸せに生きてほしい」と願う人の思いがそこにはある。さて、小林書店。できない、とあきらめないで、わたしにできることをみつけてみます♪