マスターは、あきらめない
「マスターは、あきらめない」
近所に小さな喫茶店がある。オープンして40年。マスターも70歳を過ぎた。何よりもコーヒーを淹れるのが好きで好きでたまらず、盆も正月も休まない。そのマスターが、5年ほど前に奥さんを亡くした。相当辛かったと思う。不運は続く。ちょうどその頃のことだ。すぐ近くに、フランチャイズチェーンのコーヒー店が進出してきた。おしゃれで広々とした店内。それに、大きな駐車場まである。 一気にお客さんが減った。
わたしは、毎日毎日、マスターの店に週刊誌を配達するので、以前との違いがよくわかる。「これは大変だなあ~、もうお店閉めるかもしれん・・・」と思いつつも、せめて一杯余分にコーヒーを飲みに行ってあげる以外に成す術もなく、我が事のように身につまされた。 しかし、だ!しばらくして、以前通り、いやそれ以上に賑わうことになった。なんと、マスターは、早朝5時から店を開けることにしたのだ。いったい何時に起きるのだろう。ライバルのお店は朝8時半開店だ。同じ条件では戦いにならない。朝早く、始発電車で仕事に出掛ける人たちにモーニングを提供した。メニューは、トーストだけではない。ホットドッグやミニサンドのセットなどバラエティに富んでいる。これがまた美味しいときている。満席になるのには、それほど時間がかからなかった。
さらに、その後の7時から8時の時間帯は一般の通勤のお客様。9時を回ると、今度は近くの幼稚園に子どもを送った帰りのママさんたちが集う。12時を過ぎるとお昼休みのサラリーマンが訪れる。そして、なんとなんと!午後1時で閉店。「なんて早いの?」と一瞬思うが、これだけでも8時間労働なのだ。その後、片付けをして翌日の買い出しに出掛ける。マスターは、「夜の8時にはもう寝てますよと」笑う。 大型店舗や人気店ができたから・・・と愚痴を言ってあきらめる店主もいる。でも、小さいからこそ自由にできることがある。「柔軟に考える頭」と「行動力」こそが生き残る道なのだと、けっして「あきらめない」マスターはいつもわたしに勇気をくれる。