ご縁の不思議

「ご縁の不思議」

よく出版社の編集者さんから「これ読んでいただけませんか」と原稿を渡される。いわゆるゲラだ。私の推薦の言葉をもらい、それをPRに使おうというのだ。めちゃくちゃ忙しい生活を送っている。一番の仕事は配達だ。定期購読されている雑誌を、発売日にお客様に届けることをモットーとしている。一刻でも早く読みたい。その気持ちを大切にしたいからだ。
ゲラ読みの報酬は、もちろん無料。でも、頼まれると嫌とはいえない性分。仕方なく、というと失礼だが、なんとか時間を作って読む。本になるくらいだから、どれも面白い。でも、全部が一等賞というわけではない。できるだけ褒めるコメントを書いて編集者さんに渡す。もし、それがきっかけで本が売れれば、その作家さんの人生が変わるかもしれない。
ある時、PHP研究所さんからゲラを託された。困った。こんな忙しい時に・・・。そうぶつぶつとぼやきながらも、「細切れでもいいから、何日かに分けてサッーとでも」と読み始めた。ところがである。困ったことに、ぐいぐいと引き込まれる。短編小説集で、一編を読み終えるのに10分もかからない。区切りで本をいったん閉じることもできる。なのに止まらないのだ。
その本は「5分で涙があふれて止まらないお話 七転び八起きの人びと」。志賀内泰弘さんという作家さんの著書だった。自分の人生と重なるところもあり、夢中で感想の手紙をしたためた。気づくと便箋5枚になっていた。すぐにO編集長さんからお礼の電話があった。さらに、志賀内さんからも。本が出版されると間もなく、そのお二人が小林書店に挨拶に来られた。
私は、夢中で今までの苦労話をしゃべくりまくった。るすと、その話を志賀内さんが次の新刊に書いて下さった。それが元で、その本の読者さんが大勢全国から小林書店を訪ねて来られようになった。さらに、さらに・・志賀内さんが代表を務める「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動とコラボして「いい話の小さな図書館」をスタートさせることになった。次から次へと起こる波に付いていくのが精いっぱい。だから今日もゲラを読ませていただく。ご縁の不思議を知っているから。