ガーベラが届いた!

「ガーベラが届いた!」

新型肺炎ウイルスが突然世界中を襲って3ヵ月が過ぎた。姿の見えない病原菌に脅かされるこんな日が来るとは夢にも思わなかった。人が集まる施設は休業を余儀なくされ、企業は在宅勤務になり、学校は休校になった。医療機関や食料品店は大きな不安とリスクを負いながら日々奮闘されている。そんなある日、福岡県の見知らぬ人から「ガーベラ100本」と書かれた段ボール箱が届いた。この騒動にまぎれ、注文していない物を送り付けて法外な請求をする詐欺があると耳にしていた。運送屋さんに、「頼んでないです」と訴えると、「受け取り拒否で持ち帰りましょか?」と言われた。だが、主人は「大丈夫やろ」と受け取り勝手に開封。すると、色とりどりのガーベラとともに手紙が入っていた。それは、作家の志賀内泰弘さんからのものだった。文面には、「今回のコロナの影響で花農家さんへの注文が激減。でも花は時期が来て満開になる。仕方なく処分するしかない・・・だから農家さんの応援を」と、送って下さったのだった。たぶん、わたしだけにではないだろう。いったい何人に送られたのだうか。末尾には、こんなことがつづられていた。「お返しはいりません、恩送りをしてもらえば」。すぐにお礼の電話をすると、志賀内さんはこう言われた。「みんな困っています。でも、例えば1割減って困っている人は2割減って困っている人を助けるのです。2割減って困っている人は3割減って困っている人を助けるのです。そうして、思いやりとお金をぐるぐる回していくのです」。胸がつまった。そうだ、この愛を、この100本を、1本づつ100人の人にもらってもらおう!早速、娘や孫たちが茎を濡らしたペーパーで包みアルミ箔で巻いて、1本づつ紙で巻いて包装してくれた。それをまずご近所や日頃配達しているお宅に手分けして届けた。もちろん、いきさつを話ながら。30本ぐらい残して店頭で道行く人にも声をかけて差し上げた。配り終わったとき、一通のメールがきた。花を届けたうちの、大の仲良しのIさんだった。「わたし、この街に住んで本当に良かった!」と書いてある。思わず涙があふれた、ああ、わたしは、ここに暮らす人たちが「ここに住んでよかった」と思って生きていってもらえるように商売をさせていただいていたのだ!絶対に忘れまい!商売をしながら、実は「モノ」を介して手渡していた「コト」があったのだと・・・ありがとうIさん、ありがとう志賀内さん。