「ない」ことを嘆くより

「ない」ことを嘆くより

バリアフリーシアターをご存じだろうか。目の不自由な方にはナレーションを入れてイヤホーンで聞いてもらえるようにする。耳の不自由な方には画面に字幕を入れる。恥ずかしながら、私は知らなかった。
1月17日から2週間、東京田端の映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」で、ドキュメント映画「まちの本屋」を上映していただいた。実は、これに至るのには経緯があった。昨年、東京のとあるカフェで上映会が開催された際、カフェの常連さんで目の不自由な方が参加された。しかし、当然の事ながら、登場するわたしやお客さんの声は聞こえても、映画の場面がまったくわからない。そこで、「ちゃんと聴いてみたい」と思い、いつも映画を観に(聴きに)行く「チュプキ」さんに「ぜひ上映してほしい」と頼んで下さったのだ。
「チュプキ」さんから問合せを受けた監督が、見本のDVDと手紙を送ると、すぐに上映が決まった。監督は、バリアフリーにするための編集作業を見学させてもらった。すると想像よりも多くの人たちが、何時間もかけて、何回も何回も繰り返し映画を観ながら、「これでつじつまがあっているか」「作品の意図からはずれていないか」「次のシーンまでにナレーションも字幕も遅れないか」とチェックをするのを目の当たりにして気が昂ったという。
上映期間中の監督とトークショーは、残念ながらオミクロン激増中で開催ではなかった。しかし、オンライントークでみなさんと交流することができた。感想を聴き、何度も胸がつまり泣きそうになった。目が見えなくても、耳が聞こえなくても、こんなに映画に寄り添い、共感しあえるなんて! それは静かで深い感動だった。
後日、監督からぜひ読んで欲しいと一冊の本が送られてきた。それが今月の選書「夢のユニバーサルシアター」だ。2016年に44歳で日本初のユニバーサルシアターを設立した平塚千穂子さんの20年あまりの記録である。2001年にバリアフリー映画鑑賞推進団体を立ち上げ、さまざまな問題にくじけることなくただ自分の夢を実現させた女性の物語だ。「思い」って何だろう、「夢」って何だろう、「実現」させるって生きるって何だろう。「ない」ことを嘆くより、共に作る楽しさを知って生きたい、彼女の言葉に潔い生きざまを見た。