ヒノキのまな板を愛して

⑦ヒノキのまな板を愛して

今から何年も前のことです。木曾屋柴蔵さんと出逢った翌々日のことでした。自宅にずいぶん重たい小包が届きました。開けてびっくり、玉手箱。中から「ヒノキのまな板」が出てきたのです。
その時は、木に関する知識はまったくありませんでしたが、素人目に見ても高価な代物であることは理解できました。慌てて電話すると、こうおっしゃいました。
「汚れてきたら送り返して下さい。表面を削り直してお返しします」
と。
「ありがとう」とは答えましたが、「自分だけ特別なわけにはいけないから…」と言いかけると言葉を遮られました。
「いいえ、うちのまな板を買い求めていただいたお客様には、すべてサービスとして無料で削らせていただいているのです。もっとも、往復の郵送料だけはご自身で負担していただいていますがね」
なんでも、ヒノキのまな板は大切に使うと一生物なのだそうです。
「木に携わる仕事をする者として、一度送り出した商品は子供と同じ。いつまでも面倒をみてやりたのです」
中には、こんな思わぬトラブルもあるそうです。送られてきたまな板を、電動カンナで削ります。その時、突然、チーンという金属音が響くことがあります。(またか)と思って調べてみると、カンナの刃が欠けたのでした。まな板の中に食い込んでいた包丁の欠けた刃が、カンナとぶつかったのです。
カンナの刃は数十万円。まな板の削り賃はタダ。何度もこんな馬鹿げたことは止めようと思ったそうです。でも、続けてきた。ヒノキを愛しているから。ヒノキの製品を大切に使ってもらいたいから。だから、損得ではなく自分の会社が存在する限り続けたいと言うのです。
高島屋などのデパートや直販で買われたお客様から、毎月、数十枚のまな板が送られてくるそうです。「使い込んで、汚れすぎたために当社の製品かどうかわからないものも多いんですよ」と苦笑い。
そして、今日も黙々とカンナで削っていると嬉しそうに語ってくれました。