イチローとお寿司屋さんの話

⑥イチローとお寿司屋さんの話

あのイチローが、大魔神・佐々木主浩さんとの対談番組でこんなことを言っていました。イチローは練習が終わると、必ずグローブの手入れを念入りにするのだそうです。それは、野球を始めたときから、ずっと続けている儀式のようなものだといいます。いわく、
「野球が上手くなるためには、一番の早道だ」
佐々木さんも、
「僕もずっとやってるよ」
と答えていました。遠回りかもしれませんが、道具を大切にする心を養うことは、何の道であれ技術や知識を学ぶよりも大切であるということを教えられました。
さて、飲食店業界の人から、こんな話を聞きました。最初、信じられずに耳を疑いました。
「一流のお寿司屋さんでは、カウンターに日本酒を飲ませている」
というのです。思わず、「何のこと?」と訊き返してしまいました。一流のお店では、カウンターにヒノキの一枚板を使っているところが多いようです。高級感を醸し出すと同時に、心が落ち着くからでしょう。
このヒノキのカウンターを長持ちさせるためには、表面をウレタン加工するのが効果的だそうです。でも、それではせっかくのヒノキの肌触りや風合い、そして木の香りが失われてしまいます。
そこで、お寿司屋の職人さんが、日本酒を使ってヒノキのカウンターを磨くのだそうです。それも、驚くことなかれ、毎日一升瓶を一本ずつ空けてしまうというのです。その世界では、
「カウンターにお酒を飲ませる」
というのだそうです。
ヒノキがお酒を吸うことによって、お客さんが醤油を零したときにも、汚れが沁みにくくなるのだそうです。そして、何よりも木が長持ちする。一流とは、そういうものかとイチローの話を思い出しました。
「いい物」には愛情を込めた日頃の手入れが大切。野球もお寿司屋さんも、一流の人は愛情が溢れているのですね。