高野登さんの話その1「高野さんは、プライベートでも『おもてなし』の達人」

「高野さんは、プライベートでも『おもてなし』の達人」
                               志賀内泰弘


ある時、高野登さんから電話がありました。
「今夜、飲み会をするんですが、いらっしゃいませんか?」
もちろん、即答で、
「はい!」
と返事をして新幹線に飛び乗ります。


六本木の居酒屋さんで、高野さんのお仲間が集まって飲んだときのことです。
会が始まると、15人くらいの参加者がめいめいに、お店の人に飲み物の注文をしました。
ところが、です。
ふと気がつくと、高野さんはいつの間にか自分の席にアイスボックスとタンブラーとお酒の瓶を持ってきて、バーテンダーに変身していました。
自分もお客さんのはずなのに・・・。
「あ、志賀内さんはアルコールは飲めないんでしたよね。じゃあ、ウーロン茶ね!」
恐縮するばかり。
でも、満面の笑顔で言われると、
「はい、お願いします。
と言い、こちらも笑顔になってしまうのです。

八丁堀のワインバーでの飲み会でのことです。
私は、その日のうちに名古屋へ帰らなくてはならず、会が始まるときに「ごめんなさい。8時半に失礼しますね」とみんなに挨拶しました。
さて、その8時半になりました。高野さんに挨拶してから帰ろうと思ったのですが、姿が見えません。トイレかな・・・。
仕方なく店の表に出ると、舗道に高野さんが立っていました。
「志賀内さ~ん。早く早く~」
そう言い、手招きをされます。
なんと!
タクシーを捕まえに行っていてくれたのでした。
「運転手さん、東京駅・八重洲口までお願いします」
これにはさすがに参りました。


もう一つ。
高野さんの友人たち10人と二泊三日で沖縄へ旅行に出掛けました。
現地ではマイクロバスに同乗して島内を巡ります。
観光スポットなどでバスを乗り降りする度に、高野さんに声をかけられました。
「荷物が邪魔でしょ。貸してください、僕の横に置きましょう」

夜はホテルの庭でバーベキューでした。
ここでも気配り。
なんと、高野さんが鉄板の前に立ち、焼きそばを作り始めたのです。
(リッツ・カールトンに焼きそばのメニューはあったかしらん?)

高野さんにこんな話をお聞きしたことがあります。
「お客様に、最高のサービスを提供しようとすると、日頃の生活が肝心です。ホテルマンの心の中に、自然に人を喜ばせようという気持ちや、思いやりが育まれていないと、「いざ」というときに行動にはできません。ホテルの中で仕事をしているときだけでなく、普段の生活でも周りの人たちのことを気遣う思いやりの心が、世界一のホテルを生み出したのです。」

「親切」や「気配り」「思いやり」の心は、遠回りのようですが、リッツ・カールトンのように、企業の繁栄に結びつくのですね。