高野登さんの話その2「リッツ・カールトンの電話」

「リッツ・カールトンの電話」
志賀内泰弘

元・リッツ・カールトン・ホテル日本支社長で、現在、「人とホスピタリティ研究所」所長の高野登さんの
「リッツ・カールトン一瞬で心が通う「言葉がけ」の習慣」日本実業出版
を読みました。

名著でロングセラーの
「リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間」かんき出版
に勝るとも劣らぬ内容で、ワクワクしながら読み進めました。

その中から、こんなエピソードを紹介させていただきます。

ある日、東京のリッツ・カールトン・ホテルの予約センターに一本の電話がかかってきました。
そのお客様は、ふるさとの年老いた母親が上京するのに際して、
ぜひ、リッツで泊まらせたいと話したそうです。
「母親は、若い頃、東京の浜松町界隈で仕事をしていました。
これが最後の東京見物になりそうです。
娘として、母の誕生日に東京での滞在をプレゼントしたい」
とのことでした。

そのまま、予約を受け付けるのではなく、
電話を受けた担当者は、その娘さんにさらに話を聞きました。
すると、
なぜ、そのお客様が、リッツを望まれたのかがわかりました。
ある雑誌に、「東京タワーが見えるホテル」として紹介されていたそうなのです。

リッツ・カールトンでは、予約の電話を受けた際に、
15分から20分も時間をかけることがあるといいます。
その会話の中から、ホテルに対してお客様が何を求めていらっしゃるかを可能な限り
先読みするためです。

調べてみると、あいにく、その日は、
東京タワーの見える部屋は、満杯でした。
「東京タワーの見える部屋」
と言って指定されたわけではありません。
でも、予約係は、こう答えたそうです。

「申し訳ありません。
お客様にお薦めしたいお部屋は、あいにくすべて埋まっております。
しかし、芝公園にご希望にぴったりのホテルがあります。
そのホテルの予約担当に知り合いがいますので、
そちらの方からお客様にご連絡させていただいてもよろしいでしょうか。
お母様にお喜びいただけるお部屋をご用意して下さると思いますよ」

そして、そのお客様がお泊りになる当日、
リッツ・カールトンのグッズと一緒に、次のようなメッセージを添えて届けたといいます。
「このホテルのお部屋からは東京タワーだけではなく、リッツ・カールトン東京も見えますので、手を振ってくださいね」

高野さんは言います。
「心からお客様に喜んでもらうとはどういうことか。
そのお客様にとって最高の時間を過ごしていただくために自分にできることは何か。
心の制約を外して考えれば、お客様の視点に立った提案ができます」

さらに、
「今回はリッツ・カールトンをご利用されないという結果になっても、
お客様との間には見えない信頼が生まれています。
それを信じてお客様に尽くすということ。
一見遠回りのようですが、
それがお客様との絆を築いていく近道でもあるのです」
と。

意識するのは、ライバルのホテルではない。
お客様に、どうしたら喜んでいただけるだろうという一点。
できるようで、なかなかできないことです。

あとは有言実行あるのみ。