高野登さんの話その3「リッツ・カールトンの一番好きな話」
「リッツ・カールトンの一番好きな話」
志賀内泰弘
ザ・リッツ・カールトン・ホテルには伝説にさえなっている数々のエピソードがあります。その多くは「サプライズ」です。しかし、地味だけれど燻し銀のように輝くお話もあります。
高野登さんの講演会を企画したときに、こんなお話をお聴きしました。
一人の女性が、ザ・リッツ・カールトン・ホテルの就職試験を受けに来ました。
「なぜ、リッツで働きたいのですか」
と聞くと、彼女はこんな話を始めたといいます。
お父さんが宅配便の配達の仕事をしている。どこの会社へ配達に行っても、人使いが荒い。「お金を払う」立場になると、多くの人が上からものを言うのが世の常です。
ところが、リッツは違ったというのです。ホテルの通用口に配達に行くと、「ありがとうございます」と言って、ホテルの人が一緒になってトラックの荷物を運んでくれる。それだけではありませんでした。「ちょっと一服しましょうか」と、ホテルの社員が飲むのと同じお茶を、同じカップで振舞ってくれるのだといいます。
日頃からこのことに感心していた彼女のお父さんは、娘の就職にあたって言いました。「だから、リッツを受けなさい」と。
宅配便の従業員も、立場が替わればお客様になることもあります。休日には食事もするだろうし、旅行に出掛ければホテルにも泊まる。それだけではありません。表裏のあるような対応をしていると、評判というのはあっという間に広がってしまうものなのです。世の中、すべての人がお客様なのです。
ある時は、「お客様を接遇する店員」の顔で、ある時は、「卸売業者と応対するバイヤー」の顔と、小賢しい使い分けをしているとツケは必ず自分に還ってくるものです。
私が主宰する志賀内人脈塾の理念は、
「ギブアンドギブ」
です。ギブ・アンド・テイクではない。
あくまでも「ギブ・アンド・ギブ」。
人に、与えて、与えて、さらに与えて見返りを期待しない生き方のことです。
「ギブアンドギブ」こそが、幸せな人生を手に入れる一番の近道なのだと、繰り返し説いています。
「ギブアンドギブ」の実践は経営にも通じます。世の中には、「ギブアンドギブ」で上手くいっている会社がいっぱいあります。
それは、人を「思いやる」心に尽きます。どんな仕事のシーンでも、相手が今、何をしてもらったら喜んでくれるかという発想をすること。それは、お金を払うか、もらうかという立場とは関係がありません。常に、ギブアンドギブの精神で、相手に尽くす人のいる会社は自ずと成長するものです。
でも、「言うは易し、行うは難し」。
それだけに、ザ・リッツ・カールトンのこのエピソードは、心に深く沁みるのです。