高野登さんの話その4「百年思考」
「高野登さんの「百年思考」」
志賀内泰弘
元ザ・リッツカールトン・ホテル日本支社長で、現在、精力的に
講演・セミナー活動をしておられる高野登さんの「百年思考」(かざ
ひの文庫)から紹介させていただきます。
これは、高野さんが、もっと力を注いでおられる善光寺寺子屋「百年塾」の講話100選です。
まずはお読みください。
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普通の仕事を、普通ではないレベルでやる
さて、あなたはあるホテルでドアマンとして働いているとします。ある日、あなたの前にタクシーが停まりました。さあ、ドアマンとしてどんな行動がとれるのか想像してみてください。タクシーに近づき、中をさっと観察しました。ご高齢のご婦人が代金の支払いをしています。彼女の向こう側には、みるからに重そうなボストンバッグが置いてあります。きっとあなたは、開いたドアに手をかけて、お客さまが降りる時に頭をぶつけないようにガードします。ドアマンとして、いつも普通にする動作です。さて、ここであなたなら、ご婦人になんと声をかけますか。
ドアに手をかけながら、
- 「いらっしゃいませ。」。そういって、彼女が荷物を持って降りるのを待つ。
- 「いらっしゃいませ。そのお荷物、先にお預かりしましょうか」。そして彼女からバッグを受取り、車から降りるのを待つ。
- 「いらっしゃいませ。そのお荷物、どうぞそのままでお降りください」。そして彼女が降りるのを待ってから、反対側のドアを開けてバッグを降ろし、エレベーターにご案内する。
①と②はよく見られる光景です。しかし③の行動は、ボストンバッグは高齢者にとっては重いものだと想像できなければとれないのです。誰もがやっている仕事を、誰もがやらないレベルでやる。そこに違いを生み出す違いがあるのです。
さて、もう1つ「百年思考」から転載させていただきます。
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想像力の翼を、大きく広げましょう
ある時、都心の高層ビルの一階でエレベーターを待っていました。ドアが開くと、私の前にいた若い女性がぱっと乗りこみ、自分の階をさっと押して、さっさと奥にいってしまったのです。仕方なく、私がエレベーターボーイをすることになりました。
その夜、「最近の東京の若者はこうなのか、がっかりしたな」と、SNSに投稿しました。すると、数日後にある女性からのこんなコメントが届いたのです。
「エレベーターのボタンは、私にとっても大変悩ましい問題です。じつは私は中途失聴者で耳が聞こえません。そのため、乗り合わせた方に、「〇〇階お願いします」と言われてもわからないのです。無視されたと思われるのが嫌なので、ボタンを押さなくてすむ奥の方にすぐに移動する習慣が身についてしまいました。エレベーターにひとりで乗る時は、今でも緊張します。 ボタンを押すことなど、耳が聞こえている方にとってはなんでもないことかもしれません。でも、もしエレベーターの中で私のような行動をとる人を見かけたら、この人、もしかしたら耳が聴こえないのかもしれないと想像していただけたら嬉しく思います。」
まさに『パラダイムシフト』(認識や価値観などの劇的な変化)の瞬間です。想像力の翼、もっと広げなくてはと反省しきりでした。
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私は、ここに高野さんの生き様を見た気がしました。
なんという「謙虚さ」そして、いつ何時も奢らない「腰の低さ」です。
このお話を読んで、私はもう15年も前の出来事を思い出しました。
ある日、高野さんに声を掛けていただき、六本木の居酒屋さんへ飲みに出掛けたときのことです。
会が始まると、10人くらいの参加者がめいめいに飲み物の注文をしました。ふと気がつくと、高野さんはいつの間にか自分の席にアイスボックスとタンブラーとお酒の瓶を持ってきて、バーテンダーに変身していました。自分もお客さんの一人なのに。
「あ、志賀内さんはアルコールは飲めないんでしたよね。じゃあ、ウーロン茶ね!」
と、私にも気遣いをして下さいました。
またある時のことです。
それは、八丁堀のワインバーでの飲み会でした。
(なんか飲み会ばっかり(笑))
私は、その日のうちに名古屋へ帰らなくてはならず、会が始まるときに「ごめんなさい。8時半に失礼しますね」とみんなに挨拶しました。
さて、その8時半になりました。高野さんに挨拶してから帰ろうと思ったのですが、姿が見えません。トイレかな・・・。
仕方なく店の表に出ると、舗道に高野さんが立っておられるのです。そして、
「志賀内さ~ん。早く早く~」
と私を呼ぶではありませんか!
なんと、タクシーを捕まえに行っていてくれたのでした。
「運転手さん、東京駅・八重洲口までお願いします」
本に書いていることと
自らの行動が100%一致。
高野さんは、そういう人なのです。