高野登さん「こころのチキンスープ」

「ザ・リッツ・カールトン・ホテルの
心に届く『おもてなし』」

〇 高野登さんが、ザ・リッツ・カールトン・ホテルの日本支社長時代に、志賀内が編集長を務めていた月刊紙「プチ紳士からの手紙」に寄稿いただいたお話を紹介させていただきます。

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「「こころのチキンスープ」
人とホスピタリティ研究所代表
高野登

こんにちは。今回はリッツ・カールトンが大切にしている『こころのチキンスープ』という本の中から一つの物語を紹介させてください。うちのホテルでは、社員同士、機会があるごとに、心のスイッチが入るような物語を紹介しあっています。
私も以前、仲間たちにこんな物語を紹介させて頂きました。
我々はつい、目の前にある現象に対して、自分の目線や自分の価値観だけで物事を判断してしまうことが多くあります。そのことに対する戒めの意味を込めてみんなで考えてみました。

* * 子犬と男の子 **

あるペットショップの店頭に「子犬セール中」の札がかけられました。
しばらくすると、小さな男の子が入ってきました。
「おじさん、子犬っていくらするの?」
「そうだね、30ドルから50ドル、だね」
男の子は、ポケットから小銭を取り出して言いました。
「ぼく、2ドルと30セントしかないんだ。でも見せてくれる」
店のオーナーは思わず微笑み、奥に向かって口笛を吹きました。すると毛がフカフカで丸々とした子犬が5匹、ころがるように出てきたのです。ところが一匹だけ足を引きずりながら、一生懸命ついてくる子犬がいるではありませんか。
「おじさん、あの子犬、どうしたの?」
「獣医にみてもらったら、生まれつき足が悪くて、たぶん一生治らないって言われたんだよ」
それを聞いた男のこの顔が輝きはじめたのです。
「ぼく、この子犬がいい。この子犬をちょうだい!」
「坊や、よしたほうがいい。そりゃあ、どうしても欲しければただであげるよ。どうせ売れるわけないんだから」
すると男の子は怒ったように睨みつけました。
「ただでなんかいらないよ。おじさん、この犬のどこが他の犬と違うっていうの。同じ値段で買うよ。今2ドル30セントはらって、残りは毎月50セントずつ払うから」
その言葉をさえぎるように、店のオーナーは言いました。
「だって、この子犬は普通の犬みたいに走ったりできないから、坊やと遊ぶことさえできないんだよ」
これを聞くと、男の子は黙ってズボンのすそをまくりあげました。ねじれたように曲がった左足には、大きな金属のギプスがはめられていました。
男の子は、オーナーを見上げて優しい声で言いました。
「きっとこの子犬は、自分の気持ちがわかってくれる友だちがほしいと思うんだ」
ジャック・キャンフィールド
マーク・V・ハンセン編著
『こころのチキンスープ 愛の奇跡の物語』
ダイヤモンド社より
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ハッとしました。ドキッとしました。
辛いことがあると、ついつい暗くなるものです。自分がケガをしたり病気になると、他人のことまで気が回らなくなっても当たり前です。
それなのに、この男の子は、足の不自由な子犬の立場になって物事を考えられる。なんて優しい心の持ち主なのでしょう。
リッツ・カールトン・ホテルでは、「こんないい話を見つけたよ」という具合に、職場の仲間で紹介しあっているんですね。勝手な推測ですが日頃から「いい話」を耳にすることが、直接的ではなくても、知らず知らずのうちに、サービスの向上に反映されているのかもしれません。                      (志賀内泰弘)