玉置崇教師奮戦記(その4) 授業参観で卵売り

モットーは「やってみなきゃわからない」
玉置崇の教師奮戦記(その4)
「日本で初!?授業参観で卵売り」

教頭時代の話だ。中学校の授業参観は、親に「来てほしくない」という生徒がいたり、中学生にもなったのだから、仕事を休んでまでして、授業での我が子の様子を見に行くことはないという保護者がいたりして、参加率は小学校に比べものにならないほど低い。
しかし、教員は授業参観となると、いつも以上に準備をして授業に臨むことは確かだ。授業参観前夜、遅くまで準備をしていた教員の学級を見ると、保護者は二人。授業者は力が抜けているだろうなと思うことが続き、授業参観は必要だろうかと考えるようになった。

そこで、PTA役員に「我が校は、今後、授業参観は年に1回にしようと思うのですが、どうですか」と相談したときだ。理由を聞かれたので、上記の話をした。すると予想もしない答えが返ってきた。
「来る人を増やしたいなら、卵を売ったらいいですよ」
予想もしない返答に聞き返した。
「何を売るのですか」
「卵!」
心の中では、「授業参観で卵を売る学校なんて聞いたことがない。何をバカなことを言っているんだ」と思ったが、口にすることはできない。作り笑いをしながら「面白いアイデアですねえ」と答え、もうPTAに相談することを止めようとも思った。

その日の夜、ふと「卵を売ったらいい」という言葉が蘇った。そして卵の卸業者の友人の顔が浮かんだ。不思議と友人に電話しなければという気持ちになった。
「我が校のPTA役員に、授業参観の参加者を増やすためには、学校で卵を売ったらいいという、とんでもないことを言った人がいるんだ」
と伝えたところ、
「それは面白い。やったらいい。350円以下で絶対に売るなと言っているブランド卵をあなたの学校へは300円で100パック卸すよ。売り上げの1割をPTA会費に入れたらいい」
という、これまた驚きの返事をもらった。ひょっとしたら、この企画、成功するかもしれないという予感が生まれ、「卵を売ってまでして、授業参観に来てほしいのです」と保護者に伝えたら賛同してもらえるのではないだろうか、という気持ちになった。
卵を売るために乗り越えなくてはいけないのは、校長だ。教頭が勝手にやるわけにはいかない。校長にどう伝えようかと思案した。まず「そんなバカなことは止めておけ」と言われるに決まっている。ただし、校長は面白がりのところがある。話の進展によっては、その性格を使って乗り越えることにした。
「校長先生、たくさんの人に授業参観に来てもらうために、誠に言いづらいのですが卵を売りたいと思うのです」
校長は何を言い出したのかという顔をしたまま、しばらく沈黙。そして、
「玉置さん、いろいろと考えるね。しかし授業参観で卵を売る学校なんて聞いたことがない」
と、当然と言えば当然の言葉が返ってきた。そこで、
「卵を売ってまでして、皆さんに来ていただきたいと伝えたらどうでしょう。保護者は受け入れてくれるのではないでしょう」と話す。
「そうはいうが、いくらなんでも学校で卵を売るなんて・・・。大型スーパーマーケットもすぐにそこにあるのに・・・」
「校長先生、もし卵が売れ残ったら、職員の前で私を叱ってください。『教頭、だから言ったじゃないか。卵を売るなんてダメだと。変なことを考えるんじゃない。卵だけに君(黄身)が悪い』と」
このギャグ提案は見事成功。校長は「それは言ってみたい。楽しみにするよ。卵を売ってみてくれ」と、失笑しながらゴーサインを出した。
授業参観のチラシには「350円で市販されているブランド卵、1パック10個入りを、お一人様1パックに限り、300円でお分けします。なお、売り上げの1割はPTA会費に入れます」と示して、生徒を通して保護者へ配付した。
その日の夕方、電話が入った。「卵を売りましょう」と言ったPTAからだ。「本当にやるのですか!」という言葉にはひっくり返りそうになったが、「卵が売れ残らないように、皆さんに電話を入れます」と応援メッセージをもらった。
授業参観の当日、開始時刻まで落ち着かない。心配で、2階から校門を見ていると、多くの人が次から次へ入って来ている。100パック完売は間違いないと確信。卵売りを始めたら、あっという間に売り切れた。
覚悟したのは、「授業参観でなぜこんなことをするのか」というクレーム。しかし、クレームは一切ない。ある保護者は、「これを考えたのは教頭先生ですって。こうまでして学校に来てほしいという思い、わかりましたよ」と言っていただけた。やって良かったとつくづく思った。
これを契機に、授業参観では、給食で出される副食(プリン、ヨーグルトなど)も販売するようになった。PTAが業者に授業参観での販売の主旨を伝えて、実現させた。もちろん売り上げの1割はPTA会費となった。
閑散としていた授業参観の日が、実に活気がある日になった。多くの方に、子どもの姿や学校の今を見ていただけるようになった。教師も張り切って授業の準備をするようになった。

思い出した言葉が、サントリー創業者の鳥井信治郎さんの言葉だ。
「やってみなはれ。やらなわからしまへんで」
授業参観での卵売りは、まさにこの精神だ。せっかく開催する授業参観なのだから、多くに人に来校していただきたい。卵売りはこの気持ちの具現化だ。これ以後、これまで以上に様々な取組を行い、学校づくりを楽しんだ。