「やまとしぐさ」講座・「手を伝う想い」
辻中公の「やまとしぐさ」講座「手を伝う想い 」
「手を伝う想い 」
人類は手を使うことで発展し、文化文明が今に繋がってきました。
「手」はどんなときに使うでしょうか。
道具をつくるとき、道具を扱うとき、食事を口に入れるとき、手を繋ぐとき、撫でるとき、手振りで想いを表現するときなどです。
「手」のつく言葉には、手塩、手助け、手先、拍手、握手、手伝いなどがあります。
漢字の「手」は「天」を意味するといわれています。また、「テ」の音には、「繋がる」という意味や、「相手があって初めて能力を発揮する」という意味があります。
ですから「手」は、自分のことにも使いますし、 誰かのためにも使うのです。
世の中のために必要な道具をつくったり、誰かのために食事をつくったり、子どもを守るために手を繋いだり、痛みが治るようにと撫でたり、家族のために神社で手を合わせてお祈りをしたりします。
そのような、想いを繋げていく暮らしが「お手伝い」の中にあります。
お手伝いを通じて家事が伝承されてきました。我が家の味噌汁の味、卵焼きの味、洗濯物の畳み方などです。
このように、どんな本にも載っていない「わが家流」です。
「お手伝い」を通じて、想いが繋がっていきます。手を伝って思いが繋がっていくことが「手伝い」なのです。
小学生の頃、洗濯物を干す手伝いをしていたときのことです。
父親のシャツをハンガーにかけて物干し竿に引っ掛けていると、母から叱られました。
「干す向きが違う。シャツは正面を南に向けて干しなさい」と言うのです。
私は、正面を北に向けて干していました。
「たとえ洗濯物であっても、太陽に背を向けて干すのではなく、正々堂々と、太陽に向かっていないと申し訳ない」と母は言うのです。
幼いながらも、こんなにも家族のことを考えてくれている母に驚きました。
私は、洗濯物を干す向きなんて考えもしなかったのです。そのときのことは今でも洗濯物を干すたびに思い出すほどです。
そして、太陽に正面を向けて干すようにしています。
皆さんは、お手伝いにどんな思い出がありますか。お手伝いから伝わる思いが必ずあります。
そんな素敵なことを味わってもらうためにも、子どもたちに「手伝い」をさせてあげてください。