迷い犬の介護 (2006/9/9)

 タヒチ在住の直木賞作家坂東真砂子さんが書いたコラムが物議をかもしている。飼い猫と野良猫との間に生まれた子猫を、殺しているという告白だ。坂東さんなりに理由はあったようだが、批判が相次いでいる。

 そんな中、ペットの美容院を経営しておられる安城市の木村紀代子さん(66)から、こんな便りが届いた。大型連休やお盆になると、やってくる若いご夫婦がいる。木村さんの店ではペットホテルも営んでおり、実家へ帰る際には連れていかれないので、飼っているシバイヌの雑種を預けにくるのだそうだ。

 この犬が年を取っていて、歩くこともままならない。おしっこも垂れ流し。床が汚れると、すぐに鳴いて呼ぶそうだ。そんなことが一日に十回以上もあり、すぐに掃除をしてやる。ほんの四、五日のことでもくたくたになるのに「飼い主さんはずいぶん大変だろうなあ」と感心していた。まさしく犬の介護だ。

 飼い主のご夫婦に話を聞くと、実はこの犬、仕方なく引き取ったのだという。三年前、往来の激しい交差点の真ん中で、一匹の犬がさまよっていた。それに気付いた通りがかりの女子中学生たちが助けた。この奥さんも一緒に近くの交番へ連れて行った。かといって交番で飼うわけにもいかない。とりあえず預かり、みんなで張り紙やチラシを使って飼い主を捜したが、ついに見つからなかった。そこで仕方なく引き取ることにしたのが、この犬だという。

 木村さんいわく「仕方なく、ではできないことです。命を大切にしておられるのですね」。飼い始めた以上、最後まで面倒をみるのが飼い主の義務だとも。命を粗末にするさまざまな事件が続く中、頭の下がる話である。