『ありがとう』のしぐさ (2006/9/2)

 横断歩道のない道路を、小学校五年生ぐらいの女の子が渡ろうとしていた。私が車を止めると、駆け足で渡って行った。渡り切った次の瞬間、その子はこちらを振り向いて、腰を九十度以上の角度にぴょこんと折ってお礼を言った。もちろん聞こえはしなかったが、満面の笑みからも「ありがとう」という言葉が心に届いた。

 さて「ほろほろ通信」にもこんな話が。名古屋市昭和区にお住まいの伊藤芳子さん(76)が、友人二人と栄のオアシス21へ出掛けたときのことだ。ベビーカーを引いたお母さんと、六歳ぐらいの男の子が目の前を歩いていた。そのお母さんの手提げ袋から何かが落ちたように見えた。拾ってみると、子どもさんの帽子だった。何度も「落としましたよ」と声をかけたが、雑踏に消されて聞こえない。

 別の人が落としたもので、その人が探しに来るといけないと思い、友人に帽子を預けておいて母子を追いかけた。息を切らして追いつき話をすると、やはり子どもさんのものだった。遠くの友人を指さし「あの人が持ってますよ」と教えた。お母さんが「もらって来なさい」と言うと子どもさんは走って行った。

 男の子は友人に深々と九十度に頭を下げて帽子を受け取った。友人が頭をなでてあげるのが見えた。まるで「ありがとうございました」という言葉がここまで聞こえるかのようなしぐさだった。「ありがとう」という感謝の気持ちは、自然と態度にも出るものである。

 先日「ほろほろ通信」で小中学生の皆さんに「ありがとうという言葉を使ってみよう」という夏休みの“宿題”を出した。街や家庭や旅先で、ありがとうが広まることを期待したい。