蚊帳つりの思い出 (2006/8/12)
先日「ほろほろ通信」で、小中学生の皆さんに夏休みの“宿題”を出した。「ありがとう」という言葉を何度も使ってみよう、という提案だ。この記事を読んだ友人宅では、夏休みの期間中、家事を分担させているという。風呂の掃除は長男、植木の水やりは二男と。「ありがとうという言葉を身につけるのは大切だが、それだけじゃ足りない」というのだ。
岡崎市にお住まいの後藤嘉男さん(86)からは、今はもうなかなか見られなくなった蚊帳にまつわる思い出話が届いた。後藤さんのお宅では、蚊帳をつるのは子どもたちの仕事だった。部屋の四隅に打ち付けた鉤(かぎ)に、背伸びをして環(わ)を引っ掛ける。ところが、蚊帳というものは正方形ではない。長方形をしているのだ。そのため、引っ掛ける環を間違えると、きちんとつれなくなってしまう。
蚊帳の中に入るときには慎重を要する。蚊が中に入ってこないように蚊帳のすそをバタバタと揺すって、すかさず体を丸めて入り込む。蚊帳の中は「海の底のようで静寂だった」と後藤さん。そして翌朝。またまた子どもたちの仕事である。今度は、蚊帳を畳まなければならない。子ども時代の後藤さんはお姉さんと一緒に、大きく腕を広げて両端を合わせていった。つるのも畳むのも頭を使わなければならない。
「家事も手伝いなさい」などという説教くさいことは言いたくないが、こうした手伝いも年を経て懐かしい思い出になる。さて、七つ違いのお姉さんが嫁いだ後のこと。後藤さんは一人きりで蚊帳を畳むことになったという。それもまたちょっと寂しい思い出。