目は口ほどに (2006/10/6)
ホテルのマネジャーをしている友人から聞いたことがある。お客さまから呼ばれる前に、何を望んでいらっしゃるかを察するのが一流のホテルマンだと。その秘訣(ひけつ)は、お客さまの目を見ることだそうだ。名古屋市守山区にお住まいの大川孝次さん(70)から、まさしくそんな話が届いた。
大川さんは目の不自由な方たちが働く施設でボランティアをしている。その帰り道のこと。御器所交差点の近くの歩道を、白いつえをついて歩いている女性に目がとまった。仕事柄もあり、気になって遠くから視線で追いかけていた。歩道からそれて市バスの車庫の入り口へ入ってしまわないかと心配した。
その女性のすぐ近くを、中学生の男の子が通りかかった。少年も心配そうにちらちらと白いつえの行方を見ていた。やがて少年も大川さんに気付いたようだった。「大丈夫かなあ」-離れているので声が聞こえるわけもないが、少年の瞳を見てそう言っているかに感じられた。
大川さんも「そうだねえ、ちょっと心配だね」と瞳で気持ちを送り返した。案の定、女性は車庫の中へと迷い込んだ。いつバスがやってくるかわからない。「どうしよう」と目で合図を送る少年に、女性の方を指さした。「助けてやってくれ」と心の中で叫んで。少年はどこで習ったのか、駆け寄って右腕を差し出し歩道へとガイドした。
大川さんは見ず知らずの少年と、一言も言葉を交わさずに気持ちが伝わったことに、うれしくて思わず拍手をしたくなったという。目は口ほどにものを言い。ホテルマンならずとも。