困ったときは… (2006/11/5)

 身の回りで、ボランティアに携わる人が増えたように感じる。「NPOに参加しているんだ」と聞いても珍しくなくなった。豊田市にお住まいの柴田和子さんから、三つの話を送っていただいた。柴田さんは現在、八十四歳という。

 一つ目、お嬢さんが小学六年生のときの話だ。その年の暮れに一緒に買い物に出掛けた際のこと。木枯らしの中、ホームレスのおじさんが凍えながら、自動写真ボックスの中に入って行くのが見えた。そのとき、お嬢さんが急に走り出し、温かい缶コーヒーを道路の向かいの店で買って戻ってきた。ボックスのカーテンを開けて「ハイ、おじさん。飲んでね」。

 二つ目は、柴田さんのお姉さん(88)の話。秋風が吹くというのに、夏物の薄着一枚で赤ちゃんを背負っている若いお母さんを見かけた。そのお母さんは、屋台のおでん屋さんの脇で、何度も財布を取り出して開けたり閉めたり。お姉さんは、そっと裏へ回りおでんを五、六本買い、お母さんの風呂敷包みの中へ黙って押し込むようにして走って帰ってきたという。

 もう一つ。昭和六十三年ころの話。そのお姉さんと一緒に、広小路通りを歩いていたときのこと。屋台のたこ焼き屋さんで、制服の学生さんが一円玉二枚を手渡して、たこ焼き一個を買い求め大事そうに持って立ち去った場面に出くわした。たとえ一個とはいえ、二円というわけはない。よほどお金に困っているのか。いまだにお姉さんと「あのとき、どうして少しでも(お金を)渡してあげなかったのだろう」と、胸の痛む思いをしているという。

 柴田さん姉妹は戦中、戦後の苦しい時代を乗り越えてこられた。お便りを読んで、こんな言葉を思い出した。「困ったときはお互いさま」