命の大切さを考える (2006/11/18)

 本紙県内版十月十三日付「ぺーぱーナイフ」に「殉職」というタイトルのコラムが掲載された。四十年前の十月十二日、東三河地方を襲った集中豪雨での出来事だ。「民家に人が取り残されている」という一報に、豊橋署の署員五人が朝倉川にボートをこぎ出した。ところが、住人三人を救い出した帰途、濁流にのまれ死者三人、行方不明四人という大惨事になったという話である。

 この記事を読まれた豊橋市にお住まいの木下豊子さん(58)から、お便りをいただいた。木下さんのお父さんは、この豪雨の際、行方不明者捜索のために、警察署から依頼を受けたのだという。お父さんの職業は潜水業。普段は堤防工事などに携わっておられた。あちこちの海で「この堤防はお父さんが造ったんだ」と、まるで自分一人で造ったかのように言うのが口癖だったという。

 ところが、いつもとは勝手の違う仕事。いちるの望みを胸に、無事を祈る家族の方々の顔を見ながら川へ向かわれた。そして発見はされたが、残念ながら…。その後、何日間かの潜水の報酬を辞退されたのだという。お父さんが亡くなられた今でも、木下さんの実家には市長さんや署長さんからの感謝状が掲げられているとのこと。

 このところ、いじめに遭った子どもの自殺のニュースが続く。なんともいたたまれない。生きていたくても災害や事故で命を落とす人がいる。木下さんは、家族や残された人たちを悲しませないためにも「生きているだけで親孝行。命を大切にして天寿をまっとうしてほしい」とおっしゃる。そのためにも、学校や社会の役割は大きい。