成人式に招かれて (2007/2/10)

 昨年の暮れのこと。三十年もの間、そろばん塾を開いておられる名古屋市緑区の堀江恵美子さん(59)を、突然一人の青年が訪ねてきた。

 「僕のことを覚えていますか。来年の成人式に誓いの言葉を読むことになりました。ぜひ見に来ていただけませんか」

 覚えていた。小学校二年から中学校一年まで習いに来ていた近藤秀さんだった。教え子は皆、かわいい。そのなかでも、近藤さんはいつも教室へやって来るなり、堀江さんの机のところに飛んできた。「あのね」といいながら、その日に学校であった出来事を楽しそうに話してから、自分の席に着くという人懐っこい子どもだった。

 その二十歳になったばかりの近藤さんに、電話をして聞いてみた。「なぜ、堀江先生に来てもらいたかったの」と。すると当時の話をしてくれた。

 子どものころ、ご両親は共働きだった。親御さんも帰宅されてから、近藤さんの話す学校のこと、友達のことを聞いてくれた。でも、それまで待てなかった。誰かに一日の出来事を話したくて仕方がなかった。

 そんなとき、そろばん塾の堀江さんが一番の話し相手になってくれた。相談事もした。たとえ考えが間違っていても、堀江さんはいきなり「ダメ」とは言わない。とにかく、どんな話でも最後まで黙って聞く。その上で、アドバイスしてくれた。それが楽しみで、そろばん塾には週に四日通った。そのことがずっと胸の奥に残っていて「自分の成人式には先生を呼ぼう」と心に決めていたというのだ。

 成人式の会場を訪れた堀江さんは、式典でかつての教え子が述べる誓いの言葉を聞きながら、むやみに涙がポロポロこぼれてきたという。そして、会場に来ていた近藤さんのご両親と一緒に、立派な成人になったことを心からお祝いしたそうだ。いじめの問題を解決するための答えの一つが、ここにあるような気がする。