地下鉄で出会った気遣い (2007/4/1)

 名古屋市名東区の柏木千鶴子さん(73)はその日、不安を胸に抱きながら最寄りの本郷駅から地下鉄東山線に乗った。ご主人が検査入院している名古屋市立大学付属病院へ向かうためだった。

 気が付くと車内に「次は新栄」というアナウンスが流れ、ハッとした。思わず隣の席に座っていた三十代の女性に声をかけていた。「あのう、今池は…」

 すると「乗り越しましたよ」という返事。心臓がドキドキして慌てて降りようとすると、その女性は「新栄で降りるより、栄まで行くと同じホームから乗り換えできますよ」と教えてくれた。新栄町駅は、反対方向のホームへは階段を上り下りしなくてはならないとのこと。柏木さんの年齢を考え、気遣ってくれたのだった。

 栄駅に着くと、ホームはかなり混雑していた。「急がなくちゃ」と気がせいていた。そのとき、誰かに肩をたたかれた。振り向くと、先ほどの女性だった。後を追いかけて来てくれたらしい。「今池で乗り換えるのですか」。「はい。名市大病院へ行きたいのです」。そう答えると「それじゃあ、一番後ろの車両に乗るといいわよ」と教えてくれた。「お気をつけて」の言葉を添えて。

 今池駅で降りると、すぐに桜通線へつながるエスカレーターがあり、スムーズに乗り換えができた。あの女性の一言がなければ、きっと今池駅で桜通線のホームを探してうろうろしていたに違いない。

 心配事があるときに受けた親切は、何より心に残る。もっとも、女性は柏木さんのご主人のことなどご存じなかったわけだが。それだけに一層の気遣いが心に染みたようだ。