つながった思い (2007/4/22)

 名古屋市緑区の近藤美代子さん(42)は、脊髄(せきずい)の病気で二度も手術をしておられる。今年に入ってからも、突然襲った激痛で体が動かなくなり、救急車で病院に運び込まれたばかり。その日も、検査のためタクシーに乗って家を出た。

 すぐ先の路地におばあさんがあおむけに倒れているのが見えた。近くには、二人の女性が心配そうに様子を見ている。八年前、母親が脳出血を起こして路地で倒れたとき、通りがかりの人に助けられたことを思い出した。近藤さんも気になり、タクシーを止めて駆け寄ろうかと迷った。でも、検査の時間に遅れてしまう。

 後ろ髪を引かれつつ、病院へ向かった。遠くからかすかに救急車のサイレンの音が聞こえた。「あっ、誰かが呼んでくれたんだ」と思うと、少し心が軽くなった。

 病院から帰宅すると、中学二年の娘さんの恵美子さんが「私ね、今日人助けしちゃった」と言う。書道塾へ行くために、母親よりも十五分早く家を出た恵美子さんは、おばあさんが倒れているのを見つけた。

 すぐに学校の保健体育の授業で習ったように、動かさずにそっと声をかけた。「どこか痛いですか。救急車を呼びますか」と。「転んで後頭部を打ってしまった」という。そうこうしているうちに女性が二人近づいてきて、持っていたかばんを見て「あとは私たちがいるから大丈夫よ。習い事に行く途中でしょ」と言われて、そばを離れたという。

 そこまで話を聞いて、今度は自分が何もできなかった話をした。すると「おかあさんの代わりに私がしたんだから、気にしなくていいのよ」と言い、携帯電話の発信記録を見せてくれた。そこには「119」とあった。近藤さんの心は、いっそう軽くなったことだろう。