野球部の補欠 (2007/5/13)

 名古屋市守山区の浅野真由美さん(41)の二男は、小学校四年生から六年生まで野球部に入っていた。一生懸命に練習をしているのだが、なかなか上達せず、六年生になっても補欠だった。レギュラーの中には、塾に通うために練習を休む子どももいたが、本人は練習を休んだことがなかった。

 大会どころか練習試合でさえベンチで応援に回る日々。親としては、いつ「つまらないから辞める」と言い出すかと心配していたが、当人は全く気にしている様子がない。試合ではピッチャーのウオーミングアップの相手をしたり、相手チームに道具を渡したりと、雑用係ばかりしていた。

 あるとき、球場のベンチにも入れてもらえず、雨の中をスタンドでぬれながら応援させられたことがあった。出場選手と同じユニホームを着ていない、という理由からだった。

 六年生最後の個人面談の際に、担任の先生が浅野さんにおっしゃった。「あのときは、とてもかわいそうな思いをさせてしまいました。これからは補欠でも同じユニホームをそろえられるようにと校長先生にお願いしました」と。「ちゃんと見ていてくださったんだ」。そう思うと涙があふれ出した。先生の目もぬれていた。

 大リーガー松井秀喜著「不動心」の中に、こんな言葉を見つけた。「努力できることが才能である」。松井選手は子どものころ、汗をかかず楽にやってのけたい気持ちはあったが、努力しないと人並みにもなれないタイプだったというのだ。

 息子さんは中学二年生になった。今はバスケットボールの練習に打ち込んでいるという。