54年前のいたずら (2007/6/3)

 昨年の暮れのことだ。岐阜県多治見市立陶都中学校の校長あてに、一通の手紙が届いた。差出人は「一卒業生OB」とあった。校長の坂崎芳範さんが開封すると、こんなことが書かれていた。

 私は貴校の卒業生で、今年古希を迎えました。長年わだかまりを抱き、心が晴れぬまま生きてきました。それは、昭和二十七年、私が三年生だった時のことです。図書室の世界美術全集の数冊に落書きをしてしまったのです。五十四年前の、ほんのいたずらとはいえ、けっして許されるものではなく、そのことがずっとトラウマになって今日まで生きてまいりました。

 年金生活で加療中の身ゆえ、わずかの金額ですがご笑納いただき、本の購入にお役に立てばと身勝手に思いますことをお許しくださいませ。あまりもう長くは生きられないと思いますが。貴校の発展をお祈りしています。ご迷惑のこと心からおわび申し上げます。

 中には、一万円が同封されていた。調べてみたが、その全集は古くなって廃棄処分されているようだった。

 坂崎さんは、全校集会でこの手紙のことを生徒に報告し、希望する本を申し出るように伝えた。PTAの役員さんにも報告した。

 実はこの後、手紙の主から坂崎さんに電話があった。金額の少ないことをずいぶん気にしておられたようだ。その際、名前や身元などは一切聞かず、確かにお金を受け取り、申し出通りに活用させていただくむねを伝えた。「これで少しは心が軽くなりました」。ご本人は、そう話されていたという。