おじさん、コイは元気だよ (2007/6/10)

 少し前のことになる。五月七日の夕暮れ時、愛西市の岡田伸之さんの奥さんと小学校一年になる娘の真優子さんが、犬の散歩に出掛けたときのことだそうだ。

 田んぼの脇を通りかかったとき、娘さんがガードレールの向こう側の用水路にコイがたくさん群れているのを見つけた。言われて近づいてみると、浅瀬の水の少ないところに乗り上げてしまい、アップアップして身動きが取れない様子だった。おそらく、産卵に適した場所を探して迷い込んだのだろうと思われた。

 後から通りかかった人たちは、口々に「すぐに死んじゃうよ」と言った。この時期、この辺りでは珍しいことではないらしい。娘さんは家に帰るとお母さんに「ペットボトルある」と聞いた。「何に使うの」聞き返すと、コイに水をかけてあげるのだという。幼い子どもの発想だが、笑うこともできない。

 二人で家にあった昆虫採集の網を持って用水路へと戻った。体長三〇センチから五〇センチのコイが十匹はいた。網ですくおうとするが折れそうになってしまった。「このままでは死んじゃうよ」と訴えられたが、どうすることもできなかった。

 あきらめかけて帰ろうとしたとき、散歩をしていた五十歳くらいのおじさんが声をかけてきた。「そんな網じゃ破れてしまうよ」と。おじさんは「待ってろよ」と言い、家から魚捕り用の網とたらいを持って来た。そしてガードレールを飛び越えて草むらの中に入り、すべてのコイをたらいの中へとすくってくれた。それを三人で水量の多い場所へと移した。

 名前も知らないおじさんに感謝の気持ちを伝えたくて、娘さんに代わって思い切って投稿したとのこと。数日後にその場所を見に行くと、コイたちは元気に泳いでいたそうだ。