駐車場の恩人 (2007/6/24)
名古屋市北区の神戸正子さん(63)から、二十年ほど前の苦労話が届いた。当時、ご主人が入院したため、病院に通うことになった。着替えなどの荷物もあり地下鉄やバスでは運べない。毎日なのでタクシーでは経済的に負担になる。家の車を使うことにしたが、問題があった。神戸さんはペーパードライバーだったのだ。
病院まで緊張しながらハンドルを握る。最初は時速三〇キロ。クラクションを鳴らされたり、怒鳴られたりもしたが必死だった。病院の駐車場に着いてからが一苦労。そこは一台ごとのスペースの境目に棒が立てられ、きちんと幅寄せしないと駐車できなくなっていた。何度も何度も切り返した。
三日目のこと。両サイドの棒に挟まってしまい、車を動かせなくなってしまった。気がせいた。夕食の時間までにご主人のところへ行かなくてはならない。車を降りておろおろしていると、遠くにいた車がバックでスイスイと切り返しながら近づいてきた。神戸さんの横で窓を開けると、作業服を着た三十代の男性が「おばさん、どうしたの。出たいの、それとも止めたいの」と聞く。駐車したいと言うと、車を乗り換えてサッと入れてくれた。
「ハンドルを切った分だけ戻すことだよ」とアドバイスし、「慣れればできますよ」と言い残し、走り去って行った。お礼を言うのも忘れ、深く頭を下げて見送った。ほかにも、多くの人から声をかけてもらった。「見ててあげるからやってごらん」と練習に付き合ってくれた人もいた。
その後、ご主人は無事退院。神戸さんは、今は車庫入れも得意なベテランドライバーだ。渋滞の道などでは、ほかの車に道を譲るなどの気遣いを心掛けているという。あの日のお返しに。