緊急停車の一コマ (2007/7/15)

 五月の大型連休。大口町の佐藤純子さん(65)が娘さん家族に会うため、東京行きの高速バスに乗ったときのことだった。静岡県に入ったところで、停留所にバスが止まった。乗客のみんなが「おかしいな」とざわついた。というのは、そのバスはトイレ休憩のために何カ所かのサービスエリアで短い休憩を取る以外、ノンストップのはずだったからだ。

 そこでは一人の若い女性が真っ青な顔をして降りて行った。しばらくして戻って来ると、運転手さんが乗客に呼びかけた。「お客さまの中で、どなたか酔い止めの薬をお持ちの方はいらっしゃいませんか」と。佐藤さんはすかさず手を上げ、二つほど後ろに座っていた女性に薬を差し上げた。「なるべく多めの水で飲んでね」

 実は、佐藤さんも幼いころから乗り物酔いに悩まされてきた。車だけではない。船も電車もすべて酔った。そのつらい経験がぱっとよみがえった。そのため今でも乗り物に乗るときにはかばんの中に必ず薬を入れているのだった。ほどなく浜名湖サービスエリアに到着。休憩の後、その女性の顔色は、かなり良くなっていた。「これなら楽しい旅ができそうです。本当にありがとうございました」とお礼を言われた。

 さて、再び出発の際、運転手のアナウンス。「皆さまには緊急停車、そのほかのご協力を願いまして本当にありがとうございます。この後、安全で楽しい旅を進めてまいります」。車内にほんわかと温かな空気が流れた。

 佐藤さんは、その運転手さんの行動、そして一言に感心してしまったとという。これぞプロとしての仕事だと。ちなみにJR東海バスだったという。