ゆっくり歩いた高校生 (2007/9/9)
さる七月七日のこと。豊橋市の原田恵三子さん(49)は、市民が講師を務める愛知サマーセミナーの講師説明会に参加するため、名古屋市内の会場へ出掛けた。地下鉄の駅を降りてしばらく歩く。途中で、通りがかりの男子高校生に道を尋ねた。すると「お連れします。一緒に行きましょう」と言ってくれた。
実は原田さんは先天性の心臓病がある。そのほか、腰椎(ようつい)変形症と難聴も。講座ではそうした経験を基に生きることについて話すつもりだった。原田さんの障害はいずれも見ただけでは分からない。なかなか説明が難しいので、その高校生には「内部障害があるで、先に行ってください。後ろからゆっくりと付いて行きます」とだけ伝えた。
高校生は、ゆっくりと歩いてくれた。何度も原田さんの方を振り返りながら。角を曲がるときも、いったん立ち止まって追いつくのを待ってくれた。そしてまた、ゆっくりと歩きだす。その細やかな気遣いがとてもうれしかった。
体がえらくなると立ち止まる。その高校生にも、何か急ぐ用事があるのかもしれない。「私と歩いていたのでは、超スローだから先に行ってもいいよ」と言った。でも、最後まで原田さんのペースに付き合ってくれた。
原田さんは若いころは、人に障害があることを口にしなかった。障害があることを言えないような社会の雰囲気もあったという。それだけにつらい思いも多かった。だから気遣いが一層うれしかった。どこの学校の生徒だろうか。もう一度会ってみたいがかなわない。その高校生にもう一度感謝の気持ちを伝えたくて投稿してくださったという。