ひと言で救われる (2007/9/23)

 名古屋市中村区の伊藤京子さん(42)は、以前勤めていた職場の後輩たちに、いつもこう声をかけていた。「落ち着いてやればいいよ」。食品の配達の仕事だった。大雪や猛暑の中の配達はつらいが、体力があれば頑張れる。でも、配達場所はなかなか覚えられない。商品について尋ねられても、すぐに答えられない。一応、一週間の研修期間はあるが、いざ始めてみるとわからないことばかり。新人はここであせってしまう。

 そこで冒頭の一言。これでみんなほっとした表情になる。自分もさまざまな苦労をしてきた。伊藤さんは生来、人と話をするのが苦手だったが、お客さんに「待ってたわよ」「あなたじゃなきゃだめ」と言ってもらい、励まされた。「これ食べてよ」と畑の野菜を差し出されたときには、うれしくてたまらなかった。

 そんな伊藤さんの勤め先が、今年の六月から変わった。弁当屋さんの調理の仕事だ。今度は、自分が新人である。弁当の種類によって、詰め方が複雑多岐にわたる。短い時間でごはんを平らに盛ることだけでも、慣れるのは大変だ。案の定、パニックになった。頭の中が真っ白に。

 その時、上司の人の一言で救われた。「ゆっくり落ち着いてやればいいよ」。さらに「フォローしてあげるよ」「何回でも覚えるまで教えてあげるからね」。それはついこの前まで、伊藤さんが新人に口にしていた言葉だった。「ありがとうございます」と答えて、今は一生懸命に仕事に打ち込んでいる。情けは人のためならず。伊藤さんは早く今の仕事を覚えて、後から入ってきた人に優しい言葉をかけたいと思っている。