京の都で出会った人情 (2007/11/11)

 この夏、豊川市にお住まいの今泉正子さん(58)は、ご主人と娘さん夫婦と一緒に京都に出掛けた。ご主人の定年と還暦を兼ねたお祝い旅行だった。ところが、あいにく台風が近づいており、嵐山の駅前で雨になってしまった。仕方がなく宿までタクシーに乗ることにした。

 何十分も待ってようやく乗れた。旅館の名前を告げると「六百四十円用意しといてや」と言うなり、ずいぶん荒っぽい運転で走り出した。しばらくして「この先を右に曲がったらある」と言われて細い路地で降ろされた。娘さんが地図を確認して「ここじゃないのでは」と言っても取り合わず走り去ってしまった。

 やはり違う場所のようだ。知らない土地で地図を手にしてうろうろした。そこに別のタクシーが通りかかり、娘さんが手を挙げた。窓ガラスを開けると運転手さんが「どうされました」と声を掛けてくれた。事情を話すと「それは基本料金だけ取って途中で降ろしたんやな」と言い「そこまで連れて行ってあげる」と乗せてくれた。

 その運転手さんは、メーターを倒して「乗車」の状態にした時、こう説明された。「空車のままだと何か事故があった時に保険の対象にならないからね。短い区間だけど倒させてもらうからね」。そして、旅館に着くと「料金はいらないから」と言い、走り去ってしまったという。なんと自腹を切ってくれたのだった。

 捨てる神あれば拾う神あり。一度は災難だと思った京都旅行が、いっぺんに楽しい思い出になった。家族ともども感謝の気持ちでいっぱいだという。