四つ葉のクローバー (2007/12/9)
甚目寺町にお住まいの林春代さん(61)が、ご主人と祖父江緑地へ散歩に出掛けた時のこと。ご主人が続けて歩いている間、林さんは川岸で少し休憩をしていた。川のはるか向こうの伊吹山をぼうっと眺めていたら、ふと二番目の娘さんのことが思い出された。一人暮らしをしているので、きちんと食事をしているのか、事故に遭ったりだまされたりしていないか。考え始めると、次々に心配が膨らんできた。
とはいっても、別に特別のトラブルがあったと聞いているわけではない。昔から自立を促していたし、本人も「一緒に住んでいると親に甘えてしまうから」と、学校を卒業すると一人暮らしを始めた。そして無事に何もなく十年がたった。それでも、ふと心配が募ることがある。何歳になっても子どもは子ども。それが親心というものだろう。
その時だ。林さんの前を通り過ぎた四十歳くらいの女性が、くるっとUターンして戻ってきた。そして、手にいっぱいの摘み草の中から探して、一本のクローバーを差し出した。よく見ると、四つ葉のクローバーだった。突然のことで黙って受け取ると、一言も言葉を交わさぬままその女性は去って行ってしまった。
その瞬間、せき切ったように涙があふれてきた。よほど悲しそうな顔に見えたのか。四つ葉のクローバーゆえに「きっといいことありますよ」と励ましたかったのだろう。そこへご主人が戻って来て「どうしたんだ」と心配そうに聞いてくれたが、言葉が詰まって説明ができなかった。他人のことを気にもかけないご時世に、胸がいっぱいになった。
その四つ葉のクローバーを封筒に入れてお嬢さんに送った。「遠くで見守っているよ」と願いを込めて。今もお嬢さんは、そのクローバーのいきさつを知らないという。