あの日の手紙 (2009/2/15)

 「今でも後悔していることがあります」。春日井市の勝田須美子さん(45)からの便りにあった冒頭の言葉だ。大阪で育った勝田さんには、由美ちゃんという幼なじみがいた。父親の転勤で小学六年の時にいったん離れ離れになったが再び大阪へ戻り、編入した高校に由美ちゃんがいた。

 昔のように仲良く一緒に登校する電車の中で、何度もからかわれた。由美ちゃんは身長が伸びないという病気で、一三〇センチくらいしかなかった。「なんであの人、小さいの」と問いかける子どもに、「見たらあかん」などと言う母親もいた。ラッシュ時のこと。もたつく二人に「迷惑やなあ」と力いっぱいぶつかってくる人もいた。

 それでも由美ちゃんはいつも「気にしない」という顔つきで、毅然(きぜん)としていた。ところが勝田さんはだんだん「しんどいなあ」と思い始めていた。ある日のこと。「明日から別々に行かへん。朝って忙しいやん。私はゆっくりしか歩かれへんし、先に行っといてほしいねん」と言われた。勝田さんの気持ちを察してのことだったに違いない。

 「じゃあそうしようか」と言い、内心ほっとした。しかし時がたつにつれて、後悔の念が募っていった。「そんなん気にせんどき」と、なぜ言えなかったのかと。大切な友達だったのに…。そんな後ろめたさを抱きながら卒業し、会うことさえなくなってしまった。

 時が過ぎ二十歳くらいのころ、町でばったり由美ちゃんに会った。それがきっかけで再び友達付き合いが始まった。ある日のこと。「いいものがあるねん」と一枚の紙切れを渡された。

 そこには「早く風邪を治してね」という言葉に続いて、その日に学校であった出来事がつづられていた。最後の一行に自分の名前を見て、ようやく思い出した。それは、勝田さんが小学二年生の時に由美ちゃんに宛(あ)てた手紙だった。

 当時、どちらかが病気で学校を休むと、庭の花を母親に摘んでもらって、お互いに持って行ったことを思い出した。口にはしないが「あのころと全然変わってへんよ。もう気にせんでいいねんよ」と言われている気がした。「懐かしいやろ」と笑顔で言われ、「懐かしいね」と答えるのが精いっぱいだった。

 今は大阪と愛知に離れてはいるが、メールのやりとりをしているという。勝田さんは電話の受話器越しに涙声でおっしゃった。「もう一度会って、あの日のことをきちんと謝りたいと思います」