父の思い、娘の思い (2009/5/24)

 瀬戸市の加藤太伸さん(57)には、二十三歳になる娘さんがいる。幼いころは、風呂に入る時も寝る時もお父さんと一緒だった。ところが、小学五年のある日のこと、「お父さんとはお風呂に入らない」と言い出した。

 次第に父親を避けるようになる。高校に入ると加藤さんが帰宅して車の音がするだけで、自分の部屋にこもってしまう。さらに「お父さんから離れたい」と東京の大学へ行き、そのまま就職して戻ってこなくなった。

 寂しかった。そこで加藤さんは、娘さんに毎日のようにはがきを書き始めた。「おまえの事をいつも思っているよ」と伝えたくて。でも一度も返事はなかった。

 東京に行って一年目の冬のこと。奥さんと一緒に、初めて娘さんの元を訪ねた。「バイトがあるから」と言われ、夜の八時に渋谷駅のハチ公前で待ち合わせをした。「なぜ夜まで待たないといけないんだ」と聞き返したが「どうしても」という。加藤さん夫婦は「男友達でも紹介されるのか」と心配になった。そこへ娘さんがやって来た。ところが「八時まで待って」と言う。ますます不安になった。「いったい誰が来るのだろう…」

 八時になった。娘さんが「ほら」とビルの大きな電光画面を指差した。そこには「おとん。おかん。めいわくかけてゴメンナサイ」という文字が映し出されていた。涙で何も見えなくなってしまった。

 「以来、時々メールではがきについてコメントを送ってくれます。たまに帰ってくると、私が送ったはがきを日付順にファイルして見せてくれます」と、加藤さんはうれしそうに言う。