看護師さんと桜の花 (2009/8/9)

 岡崎市の青柳福子さん(85)は、十年ほど前に転倒し骨折したことが原因で、何度も病院に入退院を繰り返している。そのため、花見をする機会を逸してしまう年が多い。

 今年の春も、桜が咲いた時期に病院のベッドにいた。そこへ、お孫さんがひ孫を連れてやって来た。何よりうれしいことだ。その上「お見舞いに」とガラス瓶に挿した桜の枝を持って来てくれた。自宅の庭に咲いているものを、ほんの少し切ってきてくれたのだった。ベッドからながめながら、その優しい気持ちに感動した。

 次の日のことだ。若い女性の看護師さんが入って来てこう頼まれた。「桜を貸してくださいませんか。ほかの部屋の患者さんたちにも見せてあげたいと思いまして」。青柳さんはハッとした。「そうだ、この病院には私のほかにも桜を見られない人がたくさんいる。それなのに自分だけが喜んでいて恥ずかしいわ」。もちろん「喜んで」と承諾した。

 しばらくして、看護師さんが戻ってきた。「ありがとうございました。皆さんが喜んでくれましたよ」。同じフロアの五、六室を訪ね、患者さん一人一人に花瓶の桜を見せて回られたとのこと。この看護師さんをはじめとして、病院に勤めている人は誰もが忙しい。それなのに、その合間を縫ってのわざわざの心遣いに胸が熱くなったという。青柳さんはそのおかげもあってか、今は退院して自宅で療養中とのことである。