5匹の子猫の末を案じて (2010/3/21)

 昨年の五月のこと。春日井市の田之上薫さん(63)は奥さんから「家の前の軒先でゴトゴトと音がする」と言われて見に行った。すると置いてあった段ボール箱の中に、五匹の子猫がいるではないか。黒が二匹、白に黒のぶちが三匹。田之上さんの気配に気付くと、ミャーミャー鳴きだした。どこかの野良猫が産んだのだろう。そっとしておいてやることにした。

 翌日、すぐ近くのごみ捨て場に、黒猫の死骸(しがい)が放置してあるのを見つけた。乳房がパンパンに張っている。あの子猫たちの母親に違いない。ごみ扱いではいかにも忍びない。自宅の庭に埋めて供養してやることにした。穴を掘りつつ子猫たちの末を案じた。

 しかし田之上さんは猫が大の苦手。飼い方もわからない。ふと思い出したのは、十年ほど前に飼い犬がお世話になった動物病院だった。日曜日だったが院長先生に電話がつながった。「今、旅行先にいるのですが、夜には帰りますので連れて来てください」とのこと。携帯電話へ転送になったらしい。その晩、子猫たちを連れて行き訳を話すと「預かりましょう」と言ってくださりほっとした。治療費も受け取ってもらえなかった。

 気になって仕方がなく、毎週奥さんと二人で様子を見に出掛けた。一カ月後、顔を出すと先生がおっしゃった。「五匹とも飼い主が見つかりましたよ。いずれも大切にしていただける方々なのでご安心ください」。さらに「私が一生子猫たちの面倒をみようと思っていたのですが」と。「この獣医師さんが神様のように見えました」と田之上さんは言う。