「じゃこめし」のお礼が言いたくて (2011/4/24)

 名古屋市中川区の岡村幸栄さん(63)の母親は、今、重い病にかかり床に就いている。先日、母親を見舞った時、幸栄さんに「捜してお礼を言いたい人がいる」と唐突に言い出した。

 10年ほど前、母親が名古屋駅から中村区の「横井町」行きの市バスに乗った時の話。車内で、40代後半から50歳かと思われる女性から声をかけられた。そして、問わず語りにこんな話を始めた。「今から城西病院の近くにある実家に行くところなんです。母が病気なので、同居している私の弟と交代にお風呂に入れるのです。今日は私が当番。一緒に食べようと思って、お弁当を作ってきたんです」。風呂敷を解くと、中にはパックの弁当が5つ入っていた。

 「城西病院前」で降りる前に、彼女は弁当の一つを幸栄さんの母親に差し出した。「ぜひ食べていただけませんか。今朝、私が作ったものです」。「なぜ?」と聞くと「看病をしている私の母とお姿が重なってしまって」と言う。遠慮なくいただき、帰宅してふたを開けると「じゃこめし」が入っていた。ほのかに温かさが残っていておいしかったという。

 手掛かりは少ない。たしか松蔭高校出身と聞いていた。早速近所を聞き込みして回った。町内会長さんにも調べてもらったがわからない。「母はあの時なぜ、名前と住所を聞きリンゴでも持ってお見舞いに行かなかったのかと悔やまれてならないと言うのです。自分が病気になってあの方の気持ちがわかったとも」と幸栄さん。もし一言、母の代わりにお礼が言えたなら何よりの薬になると思い手掛かりを捜している。