たかがレジ袋… (2011/5/1)

 1年ほど前。津島市の杉浦喜久弓さん(38)が、家族でショッピングモールへ出掛けたときの話。衣料品店で、当時5歳の息子さんが気分が悪いと言う。昼食の食べ過ぎか何か原因はわからなかったが、吐きそうなそぶり。とっさに「商品を汚してはいけない」と思い慌てて広い通路へと連れ出した。

 次の瞬間、倒れこむようにして下を向き、戻してしまった。杉浦さんは両手で受け取ったが、床一面に広がる。ハンカチとティッシュ、さらに首に巻いていたスカーフをはずして汚物を拭う。その横を大勢の人が通り過ぎて行くが、人の視線を気にする余裕もない。

 そのとき「大丈夫? これ使って」という声に顔を上げた。手にはティッシュとコンビニのレジ袋があった。70代前半くらいのお年だろうか。品のある白髪の女性だった。「すみません」と言って受け取ると「いいのよ、私にも孫がいてわかるのよ。今ではみんな大きくなって。だから誰かの世話をしたくなっちゃうの」。杉浦さんのご主人は2歳の妹の世話に掛かりきり。それを察して、その女性は杉浦さんが手を洗いにトイレへ行っている間、ベンチで息子さんの介護をしてくれた。

 戻って来て「何かお礼を」と言うと「またどこかで会いましょう」と言われ、去って行った。後日、母親にこの話をしたら「私もいざというときのためにかばんにレジ袋を入れておくわ。あなたもそうしなさい」と言われた。まだ同じような場面で人の役に立つことはないが常備している。「たかがレジ袋ですが本当に忘れられない親切です」と杉浦さん。