満席の新幹線で (2011/11/13)

 名古屋市守山区の関谷麻紀さん(40)が、東京に住んでいた8年前の夏の話。当時1歳の娘さんを連れ、名古屋の実家へ帰省することになった。自由席券を買って新幹線に乗り込んだところ、全車満席。リュックを背負いスーツケースを持ち、さらに子どもを抱いている。次の列車に乗り換えるためには、再び、隣のホームへ階段を昇り降りしなければならない。そう考えるだけでつらくなり、デッキに座り込んでしまった。

 そんな時、同年配の女性に声を掛けられた。「赤ちゃんを抱えて大変。こちらへいらっしゃい」。案内されたのはグリーン車だった。窓側の席には、小学6年生くらいの息子さんが座っていた。隣の通路側席を指さし「ここへ座りなさい」と言い、切符を交換してくれた。その女性はデッキに立ち、途中二度ほど息子さんの様子を見に来た。何かお礼がしたいと思い、たまたまかばんの中に入っていた五百円の図書券を渡すと「お母さんに怒られますから」と受け取ってくれない。降りる間際に、母親に渡そうとすると「気にしなくてもいいのよ。気を付けて帰ってね」と言われた。

 実家に着くと、すぐに母親にそのことを報告した。それから3カ月後、今度は関谷さんの母親が上京した時の話。新幹線自由席のチケットを買い、ホームで並んでいると、すぐ後ろにベビーカーを押す女性がいた。列車に乗り込むと、席は一つしか空いていない。手招きして、そこへ母子を座らせてあげた。「あなたが、この前受けたご恩を少しお返しできた気がするわ」と報告を受けた。

 「いつもこの二つの出来事が心に残っています。自分も席を譲るようにと心掛け、小学4年になった娘にも、人に親切にしようねと教えています」と関谷さん。