父の日の贈り物 (2006/6/2)
「母の日」に比べて「父の日」は存在感が薄い気がする。けっして父を軽んじているつもりではないのだが。その父の日を前にして、名古屋市港区にお住まいの佐野房子さん(57)からこんな話が届いた。
五年前のこと。当時、二人の息子さんは京都と岐阜の大学生で、それぞれアパート暮らしをしていたそうだ。たいていの家庭では仕送りは振り込みだろうが、佐野さんのお宅では違った。遠くてもお金を受け取るために帰省させ、手渡ししていた。なんと毎月。それは、お金のありがたみを考えさせる目的もあったが、親としては息子たちの元気な姿を見たいという気持ちもあった。
その年の五月、二男が二十歳になった。帰省した息子たちが「父ちゃん、出掛けるから支度して」と言う。夫が「どこへ」と尋ねると「一緒に飲みに行こう。ちょっと早いけど、父の日のプレゼントだよ」と。佐野さんも誘われたが「今日は男三人で行ってらっしゃい」と我慢して送り出した。息子が二十歳になったら、一緒に酒を酌み交わすというのが「父ちゃん」の夢だったことを、家族全員が知っていたからだ。河島英五の曲「野風僧」のように。
三人のご帰還は午前さまだった。夫に「どうだった」と聞くと「いろいろ」とうれしそうだが、返事を濁した。どうやら男だけの世界の話だったらしい(つまり女性の話)。翌日、息子たちは車にいっぱいの食料品や日用品を詰め込んで戻っていった。
「気をつけて」と言うと、毎度決まって返ってきた言葉。「父ちゃんたちもな」。いまでは二人とも社会人となって名古屋で働いているという。