初恋の思いいつまでも(2006/6/16)

 母はテレビでキスシーンを見るたび、息子の私に聞かせるでもなくつぶやいていた。「今の人たちには信じられないだろうけれど、昔は若い男女が手をつなぐどころか、一緒に並んで歩くだけでもとがめられたのよ」。その母と同世代の豊田市の谷口とみ子さん(75)から、淡い初恋の思い出が届いた。

 谷口さんが十六歳だったころ、学校に全女生徒あこがれの的だった男の先生がいた。二十四歳、独身。もちろん、谷口さんもたちまち好きになってしまった。授業が終わると、用事がなくてもみんなで職員室に押しかけ、先生を囲んで話をするのが楽しみだった。

 ある日のこと、先生の当直の日を狙って、夕暮れに友達と職員室へ出かけた。いつもは大勢でわいわいと騒いでいるが、今日こそはゆっくりと話ができると期待して。ところが、高鳴る胸を押さえつつ扉を開けると、そこには先客がいた。同じ思いでやってきた女生徒が、先生と親しげに話していたのだ…。

 気が付くと、泣きながら靴も履かずにはだしで校庭に飛び出していた。あれから五十九年。谷口さんの片思いは胸の奥で眠っていた。

 さて、先日のこと、クラス会があって当時の仲間が集まった。あこがれの先生も参加。少しお酒の勢いも手伝ってか、自分でも驚いたことに「今でも先生が好きです」と告白してしまった。八十三歳になられた先生は、お酌を受けながらほほ笑んでくださったそうだ。

 そんな奥ゆかしい恋もある。胸がキュンと鳴った。お便りは「来年も先生に会えるのを楽しみに、元気に暮らそうと思います」と結んでいた。