水谷かをりさん・シングルマザーを応援するプロジェクト(その2)

「とめどない『愛情』で苦難を乗り越え成功に導く②・・・「おにぎりでハートを掴む」

社員に寄り添ってみてわかる現実

水谷さんは、無我夢中で起業再生に取り組む中、稲盛和夫さんが主宰する経営者のための勉強会「盛和塾」に入塾します。稲盛さんの教えに従い、経営理念にこの文言を入れました。
「全従業員の物心両面の幸福を追求すること」
すると、社員の問題点が見えてきたといいます。

まずは生命保険の加入していない若い社員が多い事でした。それでは、病気や事故に遭ったときの不安があります。あまり「将来」のことを考えていない証拠でした。そういう社員ですから、給料をもらうとほとんどタバコやお酒に使ってしまいます。「健康」という観点がないのです。さらに、休日はギャンブルやオンラインゲームばかりに時間を費やしていました。

彼らと話すうち、「それも仕方がないな」と思えるようになってきました。というのは・・・家庭のぬくもりを知らないのです。家に帰っても暖かな夕飯を食べた経験がない。水谷さんは、子育てと介護に追われる日々を経験していたので、彼らの気持ちを慮ることができました。

「おにぎり」を握る、そして社員食堂を作る

昼夜二交代制の工場だったことから、社員は食事が不規則になります。その上、コンビニ弁当ばかりでした。

そこで水谷さんは「おにぎり」を握って休憩室の保温ケースに置いておくことにしました。食べることは、健康の第一条件です。3年ほど握り続け、握ったおにぎりの数は1万5千個!!

社員も徐々に増える中、賄い付きの社員食堂を設置しました。みんなに笑顔で健康に働いて欲しい、という願いを「形」にしたのです。

食堂のおばちゃんが一食260円という安価で昼ご飯を作ってくれます。それも、食べ放題。「おばちゃん、カレーライストお代わり!」という声が食堂に響きます。設置から2年後、社員の顔色は見違えるほど良くなり、健康になったといいます。

また、未婚者が多かったので、全社を挙げて結婚の応援もしました。万が一に備え、生命保険未加入の社員を対象に、会社負担で全社員に生命保険に加入しました。有給休暇の100%取得を達成するため、余剰人員を配置して全員で取得しやすいように調整をはかります。育児中の女性社員が働きやすいようにと、時間休暇の取得やフレックス出勤制など、大企業並みの労働環境も整えました。すべては、社員に物心両面で幸せになってもらいたという願いからでした。

その甲斐あり、2019年度の年商は約2億5千万円、利益2.800万円を達成するまでの優良企業に成長したのです。その実績を踏まえて、水谷さんは「夢」だったシングルマザー専用のアパートの開設を実現させたのです。おそらくその「夢」が会社再生のエネルギーになったに違いありません。

「どうして?」「なぜ?」「理解できないです」の連続

水谷さんの話を聞きながら、何度も何度も疑問をぶつけました。どうして旦那さんが何もしないのに、お義母さんの介護ができたのか。

どうして、引き受ける必要のない会社の社長になったのか?・・・どうしても理解ができませんでした。何度も、何度も尋ねるうち、こんな話をしていただきました。

水谷かをりさんの家には、常時、知らない人が大勢暮らしていたそうです。父親から母親に電話がかかって来て、「これから8人連れて行くからご飯の用意しておいてくれ」と。母親は「はい」と言い黙って引き受けます。

やがてやって来たのは、身寄りのない人達。そう、ホームレスでした。食事どころではありません。家に上がると、まずはお風呂に入ってもらって、キレイにすることから始まります。ご飯を食べても出て行きません。そのまま寝泊まりすることになります。

父親は、気持ちのある者だけ、自分の会社で雇って働いてもらったそうです。なんと、彼らには、母親がお弁当まで作ってあげたといいます。

父と母の「愛情」をたっぷりと受けて育ったから

彼女は言います。
「そいう環境で育ったんです。父も母も『愛情』にあふれていました。困った人を見ると放っておけないのです。

私も、父と母の『愛情』を受けて育ちました。父は、「自主自立の精神」を大切にうるさく口に出したりはせず、やりたいことをやらせてくれ、失敗した時には『愛情』で受け止めてくれました。母は、何よりも私の健康を考え、『愛情』を込めてバランストの良い食事を作ってくれました。起床・就寝・歯磨きなどの規則正しい生活習慣が身に付いたのも母のおかげです。常に謙虚に反省し、感謝の気持ちを忘れない精神は、母から自然と教えられました。

社員は『家族』です。だから、社員にも『愛情』を注いで幸せになってもらいたいんです。私が幸せになったように」
水谷さんは、さらにその「愛情」の輪をシングルマザーに広げて、今日も前へ前へと歩んでいます。

〇シングルマザー専用のアパート「パークリンク桑名」について詳しくはこちらをご覧ください。
http://les-liens.co.jp/

写真(おにぎり)
〇写真は、水谷さんが朝日工業とは別に、近年、取締役を務めている運送会社で握っていた「おにぎり」の写真です。トラックドライバーは忙しく、この「おにぎり」を持ってトラックに乗り込んで行きます。また、右側にチラリと見えるのは使い捨てカイロです。真冬の荷物の積み下ろし作業で悴んだ手を温めてもらうためです。
また、毎日、メモ用紙にドライバーさんへのメッセージを添えていました。