シングルマザー・大津たまみさんの「夢」への挑戦(その2)

~母親の「愛」で、どん底からはい上がる~ 

 友人に「これから、こんな仕事を始めるのよ」とプレゼンをして、もしも掃除や片づけに困っている人がいたら紹介して!と頼みまくりました。少しずつ人づてに、ハウスクリーニングや家事代行の仕事が増えて行きました。スタッフも雇いました。もちろん、自分自身が一番、猛烈に働きました。朝から晩まで、身を粉にして。
 しかし、夜、遅くになっても帰らない母親に息子さんは、一人アパートで寂しい思いをしていました。嬉しい事も悲しい事もつらい事も、たった一人で過ごしていきながら解決していきました。
 学校で息子が片親になった事で嫌な思いをしないようにと、担任の先生に、
「離婚したことを、わからないようにして下さい」
とお願いしました。しかし、しばらくして、保護者の会で、その担任の先生にこんなことを言われてしまったのです。息子が友達とやんちゃな事をしたという話をした際に、
「片親だから、保護者の目が届かないからそのような行動に出るのよ」
と。みんなの前でです。
もう涙を通り越し、ショックで押し潰されそうでした。

 がむしゃらに働きました。働いても働いても「貧困」から抜け出せません。
 起業して半年が経ったある日のことです。大津さんは身体の異変に気づきます。突然、身体の震えが止まらなくなってしまつたのです。それは・・・疲労と栄養失調が原因でした。母親が、体調の異変に気付いたのです。
 それまで、心配を掛けないようにと黙っていました。母親に、「大丈夫?」と訊かれても「大丈夫よ」と答えました。精一杯の強がりで、心と身体の限界を隠そうとしました。ところが、母親は、すぐに察しました。そして、こう言ったそうです。
「「できる子」に産んだんだから、あなたならできる」
そして、目の前にスッ~と茶封筒を差し出しました。中には200万円の現金が入っていました。それは大津さんが、初めて母親に心のうちを話し、甘えることができた瞬間でした。

 そのお金で、都心の名古屋駅に事務所を移転します。
すると、あら不思議。次々に大手企業から仕事が舞い込みました。名古屋駅前の一等地という立地が想像を超える「信用」を生んだのです。
 中にはトヨタ自動車の販売店さん向け研修会での講師としての仕事もさせていただけるチャンスをもらいました。全国の店舗で環境美化のレクチャーをするという大きな仕事でした。
そこから、大津さんの快進撃が始まりました。その後は、急成長を遂げ東京進出も果たし、関連会社は4社となり携わるスタッフも百数十名に増えました。「8秒で幸せをつかむ片づけ力」(かんき出版)、「幸せになる!生前整理ワークブック」(PHP研究所)ほか多数の出版をし、ひんぱんにテレビにも出演します。あの苦しい「貧困」から抜け出したのです。
 それは、本人の頑張りもさることながら、母親の「愛」のおかげでした。母は偉大です。母の力は尊大です。

 ~シングルマザーの子供たちを応援したい!~

 2013年5月のことでした。大阪府北区で母子の変死事件が起きました。食べる物が無くて餓死したのです。厚生労働省のデータによると、シングルマザーの世帯の59%が「貧困状態」です。シングルマザーの世帯数は全国に128万世帯。就労収入300万円未満が85%。平均年間就労収入は、181万円です。それでは、アパートの家賃を支払ったら、いくらも手元に残りません。これは、平成22年度の統計であり、現在は悪化の一途をたどっていると思われます。
 大津さんは言います。
 「制服が買えない。ランドセルや文具が買えない。遠足に行くのに、一人だけおやつを持たせてやれない。そんな家庭がたくさんあるのです」

 大津さんは、2016年(株)リンクリンクを立ち上げました。それは、「貧困」に喘ぐシングルマザーたちを支援する会社です。
まず、シングルマザーの家族ためのシェアハウスを一棟造りました。空き家を活用して敷金・礼金ゼロで低家賃のシェアハウスです。そこでは、低予算で食事・洗濯・清掃などの家事支援を高齢者が行っていきます。また、チャイルドケアサービスも行うことで、母親の働きやすさと暮らしやすさを実現していきます。
大津さんと同じ悩みを抱える人たちからの紹介が相次ぎ、すぐに四家族の入居が決まりました。
また、母子家庭を支援する行政の窓口とネットワークを作り、「
シングルマザーを支援したい」というボランティアとの連携もはかります。例えば、勉強机やカバンなどの物品支援、経済援助をしたいという人たちと「リンク」させます。
 さらに、頑張るシングルマザーが自立をするために、スキルアップの教育を行い、能力ある人材を企業に紹介する仕組みを作りました。昨今の「人手不足」の解消にも一役立つものです。

 大津さんは、自分自身が「貧困」と戦ってきました、だから、「貧困」の人たちの気持ちがわかるのです。大津さんは言います。
 「小さな子どもが、私の息子のように一人ぼっちで過ごすことのないような社会にしたい。これは、シングルマザーの子どもたちの支援なのです。10年後、シェアハウスを全国に100ホーム造ることを目標にしています」

 自分が辛かったから、同じ境遇の人たちを応援したい。そんな大津たまみさんの「生き方」に心打たれました。
 
(株)リンクリンクについて詳しい内容と、大津たまみさんへの講演の依頼についてはこちらをご覧ください。
https://tamami.net/